不動産売却の税率が変わる境目|所有期間は1月1日で判定

「あと半年待てば5年になるので、それから売ったほうがいいですよね」。年の後半になると、この質問がよく出ます。所有期間が5年を超えると税率が下がる、という話はよく知られていて、そこまではそのとおりです。
ただ、5年の数え方が違っています。取得した日から5年ではありません。この記事では、どこで税率が切り替わるのか、切り替わると手元に残る額がどれだけ動くのか、そして待つ判断をどう考えるかを、売主の側から並べます。
「5年」は取得日から数えない。譲渡した年の1月1日で切る
土地や建物を売ったときの譲渡所得は、長期譲渡所得と短期譲渡所得に分かれます。分かれ目は、国税庁のタックスアンサーNo.3202「譲渡所得の計算のしかた(分離課税)」に書かれています。「長期譲渡所得とは譲渡した年の1月1日において所有期間が5年を超えるものをいいます」。短期はその裏返しで、譲渡した年の1月1日において所有期間が5年以下のものです。
基準になるのは売った日ではなく、売った年の1月1日です。同じページには所有期間の定義も書かれています。「『所有期間』とは、土地や建物の取得の日から引き続き所有していた期間をいいます」。つまり、取得の日から売った年の1月1日までを数えます。
ここが実務でいちばん取り違えられます。2021年6月に買った家を、2026年7月に売ったとします。取得から5年1か月たっているので長期だと思われがちですが、2026年1月1日時点の所有期間は4年7か月です。5年以下なので短期になります。長期の税率が使えるのは、2027年1月1日以後の譲渡からです。
もっと極端な例もあります。2021年1月2日に取得した場合、2027年1月1日時点でようやく所有期間が5年を超えます。長期になるのは、取得からおよそ6年たってからです。逆に2020年12月30日に取得していれば、2026年1月1日時点ですでに5年を超えているので、2026年1月に売っても長期です。取得日が数日違うだけで、長期になるまでの待ち時間が1年近く変わります。
相続や贈与で受け取った家は数え方が別です。同じNo.3202に「相続や贈与により取得したものは、原則として、被相続人や贈与者の取得した日から計算することになっています」とあります。親が40年前に建てた家を去年相続したなら、所有期間は40年です。相続してすぐ売っても短期にはなりません。
長期と短期で、税額はおよそ2倍になる
税率は国税庁のタックスアンサーに数字で書かれています。長期はNo.3208「長期譲渡所得の税額の計算」で「税額=課税長期譲渡所得金額×15%(住民税5%)」。短期はNo.3211「短期譲渡所得の税額の計算」で「税額=課税短期譲渡所得金額×30%(住民税9%)」です。所得税の税率がちょうど2倍、住民税は5%と9%です。
これに復興特別所得税が乗ります。No.3208とNo.3211のどちらにも「平成25年から令和19年までは、復興特別所得税として各年分の基準所得税額の2.1パーセントを所得税と併せて申告・納付することになります」と書かれています。
| 長期譲渡所得 | 短期譲渡所得 | |
|---|---|---|
| 判定 | 譲渡した年の1月1日で所有期間5年超 | 譲渡した年の1月1日で所有期間5年以下 |
| 所得税 | 15% | 30% |
| 住民税 | 5% | 9% |
| 復興特別所得税 | 基準所得税額の2.1パーセント(令和19年分まで) | |
※ 出典:国税庁タックスアンサーNo.3202、No.3208、No.3211(いずれもページ上の基準日は「令和7年4月1日現在法令等」。2026年8月31日確認)。表の数字は原文の表記のままです。
合計の税率を出しておきます。長期は15%に復興特別所得税(15%の2.1パーセント=0.315%)を足して15.315%、住民税5%と合わせて20.315%。短期は30%に0.63%を足して30.63%、住民税9%と合わせて39.63%。この合計値は国税庁のページには書かれていません。上の3つの数字を私が足したものです。
金額にすると差が見えます。課税譲渡所得が1,000万円だった場合、短期なら所得税300万円、復興特別所得税6万3,000円、住民税90万円で合計396万3,000円。長期なら所得税150万円、復興特別所得税3万1,500円、住民税50万円で合計203万1,500円。差は193万1,500円です。
※ 試算の前提:課税譲渡所得(譲渡価額から取得費と譲渡費用、特別控除額を差し引いた後の金額)が1,000万円ちょうどで、他の特例の適用がない場合の概算です。実際の税額は取得費の資料、譲渡費用、適用できる特例で変わります。個別の判定は税務署または税理士にご確認ください。
この193万1,500円を、私の商売感覚に翻訳します。売買代金2,000万円の物件で当社がいただく仲介手数料の上限額は、税込72万6,000円です。税率の境目1本で、その約2.7倍が動きます。売主の手取り額を1円でも多くという話をしているときに、手数料の交渉より先に見るべき数字がここにある、というのが正直なところです。手数料や登記費用まで含めた手取り額の考え方は手取り額で考えるページに置いています。
待つ側にも費用がある。私は境目だけで売り時を決めない
税率の境目をまたぐために売却を先送りする判断は、数字だけ見れば分かりやすく見えます。193万円が浮くなら待てばいい、という結論になりそうです。私はそこで止まりません。
待っている間、家は動きません。持ち主には固定資産税・都市計画税が翌年もかかり、火災保険の契約は続き、水道や電気の基本料金が出ていきます。誰も住んでいない家なら、草が伸び、雨樋が詰まり、屋内の湿気が進みます。私が繰り返し言っているのは、家は住まなくなった日から傷み始める、ということです。半年から1年の先送りは、その分だけ売り出したときの見え方を落とします。
価格のほうも動きます。売り出し価格をいつ決め、いつ見直すかで成約額は変わります。そのあたりは売り出し価格の決め方|金利3.29%と値下げの時期に書きました。1年待った結果、成約額が200万円下がれば、税率で得たものは消えます。
当社は、税率の境目を理由に「年明けまで待ちましょう」とご提案することはしません。売主の事情を知らないまま、税だけを見て売却時期を動かすのは、当社の仕事の範囲を超えていると考えているからです。年内に住み替え先が決まっている方、返済を止めたい方、施設の入居費用に充てる方。どれも税率より優先する事情です。
そのかわりに当社がやることは決めています。媒介契約の前に、登記事項証明書で取得の日を確かめ、その年の1月1日時点で長期と短期のどちらの帯に入るかを書面でお伝えする。そして次の章の3,000万円控除で課税額がゼロになる可能性があるかどうかも、同じ紙に並べる。判断の材料をそろえるところまでが当社の役割で、いつ売るかを決めるのは売主の方です。
迷いも書いておきます。取得日が12月末で、あと2週間ずらせば長期になる、という相談が来たらどうするか。私は自分の中でまだ答えが定まっていません。193万円は磐田市内なら中古住宅の解体費用に届く金額で、無視できる額ではないからです。おそらく私は「決済日を年明けにする選択肢もあります」とだけ言って、買主との調整ができるかは別の話だと添えるはずです。それが誠実な線だと今のところ考えていますが、そう言い切れる根拠は持っていません。
なお、当社が買主になることはありません。買取・買取保証を率先して行わない理由は当社が買取・買取保証を率先して行わない理由のとおりです。買取なら決済日を自由に動かせる、という説明を当社の口から出さないのは、この立場を守るためです。
マイホームなら、税率より先に3,000万円控除を見る
自分が住んでいる家を売る場合は、税率の話より先に確かめるものがあります。国税庁のタックスアンサーNo.3302「マイホームを売ったときの特例」には「マイホーム(居住用財産)を売ったときは、所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3,000万円まで控除ができる特例があります」と書かれています。所有期間の長短に関係なく、という一文が効きます。
控除を引いた後の課税譲渡所得がゼロになれば、長期でも短期でも税額はゼロです。境目をまたぐために半年待つ意味も、そこで消えます。磐田市や周辺で一般的な広さの中古戸建てなら、譲渡益が3,000万円を超える例はそう多くありません。まず控除で足りるかどうかを見て、足りないときに初めて税率の帯を気にする。その順番だと思っています。
所有期間が長い場合は、さらに税率が下がる特例もあります。No.3305「マイホームを売ったときの軽減税率の特例」は、要件のひとつに「売った年の1月1日において売った家屋や敷地の所有期間がともに10年を超えていること」を挙げています。要件を満たすと税額の計算式が変わり、No.3305の表では課税長期譲渡所得金額(A)が6,000万円以下の部分は「A×10%」、6,000万円を超える部分は「(A-6,000万円)×15%+600万円」とされています。3,000万円の特別控除との重複適用もできると同じページに書かれています。ここでも判定日は1月1日です。
空き家になった実家を売る場合は、また別の枠組みがあります。相続した家の3,000万円控除については空き家の3000万円控除|買主の取り壊しでも2027年末までにまとめました。要件も期限も居住用の特例とは違うので、混ぜないでください。
※ 出典:国税庁タックスアンサーNo.3302、No.3305(いずれもページ上の基準日は「令和7年4月1日現在法令等」。2026年8月31日確認)。No.3305の税率表に住民税の記載はないため、住民税の扱いはこの記事では触れていません。適用要件は上記のほかにもあり、個別の可否は税務署または税理士にご確認ください。
売り出す前に確かめる3つのこと
売ると決めていない段階でも、確かめておくと後で効くことが3つあります。どれも今日できて、費用はほとんどかかりません。
- 登記事項証明書で、取得の日を確かめる。権利部(甲区)の受付年月日が目安になります。法務局の窓口や郵送、オンライン請求で取れます。相続で取得した家なら、被相続人が取得した日まで戻って数えます。
- 買ったときの売買契約書と領収書を探す。取得費が分からないと、国税庁タックスアンサーNo.3258「取得費が分からないとき」のとおり「売った金額の5パーセント相当額を取得費とすることができます」という扱いになります。2,000万円で売るなら取得費は100万円。課税される額が跳ね上がり、税率の帯どころの話ではなくなります。契約書が見当たらない場合に、5%へ進む前に当たる資料は不動産売却の取得費の調べ方|5%前の4資料で順番を整理しています。
- 自分が住んでいた家かどうかを、いつまで住んでいたかの日付で押さえる。3,000万円控除も軽減税率も、居住していたかどうかで入口が変わります。住民票の除票や公共料金の記録が手がかりになります。
この3つがそろうと、税理士に相談したときの答えが早く返ってきます。何も持たずに相談すると、まず資料を集めるところから始まるからです。磐田市や周辺で売却を考えている方向けの地域ごとの事情は、磐田市の不動産売却のページにまとめています。
1月1日で切る、という決まりを知っているかどうかで、同じ家でも手元に残る額が変わります。ただ、それは売り急ぐ理由にも、売り控える理由にもなりません。今日、売るかどうかを決める必要はありません。取得の日と取得費の資料だけ手元にそろえておけば、半年後にどちらを選んでも、その判断は今より確かなものになります。
※ 出典(いずれも2026年8月31日確認):国税庁「No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)」/同「No.3208 長期譲渡所得の税額の計算」/同「No.3211 短期譲渡所得の税額の計算」/同「No.3302 マイホームを売ったときの特例」/同「No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例」/同「No.3258 取得費が分からないとき」。仲介手数料の上限額は国土交通省告示(昭和45年建設省告示第1552号/最終改正 令和6年6月21日)にもとづく計算です。税制・税率・特例の要件は変わることがあります。本文の試算は前提を置いた概算で、特定の物件での結果を示すものではありません。譲渡所得の計算、所有期間の判定、特例の適用可否といった個別のご判断は、税務署または税理士にご確認ください。
よくある質問
取得してから5年たっていれば長期譲渡所得になりますか?
国税庁タックスアンサーNo.3202では「長期譲渡所得とは譲渡した年の1月1日において所有期間が5年を超えるものをいいます」とされています。数えるのは売った日までではなく、売った年の1月1日までです。2021年6月に取得した家を2026年7月に売ると、2026年1月1日時点では4年7か月なので短期にあたります。長期の税率が使えるのは2027年1月1日以後の譲渡からです。
相続した実家は、相続から5年待たないと長期になりませんか?
No.3202に「相続や贈与により取得したものは、原則として、被相続人や贈与者の取得した日から計算することになっています」と書かれています。親が長く所有していた家なら、相続してすぐ売っても短期にはあたりません。ただし空き家の3,000万円特別控除は別の要件と期限で判断します。個別の判定は税務署または税理士にご確認ください。
税率が下がるまで売却を待ったほうが得ですか?
当社は税率の境目を理由に売却時期を動かすご提案はしません。待つ間も固定資産税や火災保険料はかかり、住まなくなった家は傷みます。売り出し価格の見直し方によって成約額も動きます。またマイホームであれば所有期間の長短に関係なく3,000万円の特別控除があり、課税される譲渡所得がゼロになる例もあります。控除で足りるかどうかを先に確かめる順番をおすすめします。
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文責:大石浩之(富士ヶ丘サービス株式会社 代表取締役/宅地建物取引士 静岡県知事 第027186号)
静岡県磐田市で不動産業を営んでいます。売却のご相談はかんたん入力のフォームから。
記事の内容は公開時点の一般的な情報です。税務・登記・相続の個別のご判断は、税理士・司法書士など各分野の専門家にご確認ください。