自宅売却の損益通算|残債がある人の4条件

売れそうな価格より住宅ローンの残高が大きい。預金を出せば返せそうでも、引っ越した後の家計が気になる。そのとき確認したいのが、自宅を売った損失を給与などの所得から差し引ける特例です。ただし、銀行に返すお金と、税金の計算で使う損失は別々に整理します。
返済不足と譲渡損失は別の数字
自宅売却の「返済不足」はローンと売却代金の差、「譲渡損失」は取得費や譲渡費用を使って計算する税務上の赤字です。残債より安く売れるという理由だけでは、損益通算を使えるとは決まりません。
国税庁No.3202では、譲渡所得は売却収入から取得費と譲渡費用を引いて計算します。取得費は購入代金などですが、建物は所有中の減価償却費相当額を差し引きます。昔の購入額をそのまま使う計算ではありません。ローン返済額も、取得費や譲渡費用として引く数字ではありません。
国税庁No.3390の制度名は「特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」です。通常は別に計算する不動産売却の損失を、条件付きで給与所得や事業所得などと相殺できます。これが損益通算です。控除しきれない分を後の年に持ち越す仕組みが、繰越控除です。
私は、新しい家を買わずに賃貸へ移る人も対象になり得る点を、この制度の良いところだと考えます。次の住宅購入を前提にしなくても、売却後の家計まで検討できるからです。一方で、「いくら税負担が減るか」と「いくら現金を用意するか」が一緒に語られると、判断を誤ります。この二つを分けた説明が要ります。
購入時の資料がない場合は、取得費を調べるための4資料から探してください。取得費が分からないままでは、税務上の赤字そのものを確認できません。
4条件は契約前に確認する
国税庁No.3390が示す基本要件は、居住用の資産・所有期間・住宅ローン・売却価額の4つです。2026年4月1日現在の案内では、対象となる売却の期限は2027年12月31日です。4条件に加え、譲渡損失の発生、適用除外、申告手続きも確認します。
- 国内にある自分のマイホームなどであること。現在住んでいる家のほか、以前住んでいた家も一定の期限内なら対象です。転居済みの場合は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る必要があります。家とともに売る敷地や借地権も含まれます。
- 売った年の1月1日に、家屋と敷地の所有期間がともに5年を超えていること。売買契約日に5年を超えていればよい、という判定ではありません。2026年中の売却なら2026年1月1日時点で確認します。
- 売買契約日の前日に、その家の償還期間10年以上の住宅ローン残高があること。償還期間は返済する期間です。残りの返済期間が10年以上必要、という意味ではありません。借換えや返済期間の変更があれば、契約資料を金融機関と税理士に見せて確認します。
- 売却価額が、契約日前日の住宅ローン残高を下回ること。仲介手数料などを払った後の手取り額ではなく、売却価額と比べます。費用を払って現金が不足することと、この条件を満たすことは同じではありません。
出典:国税庁No.3390「特例の適用を受けるための要件」(2026年10月1日確認)。家を取り壊して敷地を売る場合や、災害で家を失った場合には追加の条件・期限があります。更地にする前に個別確認が必要です。
例えば2021年6月に家と土地を取得し、2026年10月に売る場合。売る日には5年を超えていても、2026年1月1日時点では5年を超えていません。この前提では所有期間の条件に届きません。日付の見方は所有期間を1月1日で判定する記事でも整理しています。
親子や夫婦など特別の関係がある相手への売却は対象外です。前年・前々年の3,000万円特別控除等の利用や、過去の譲渡損失特例の利用も影響します。4項目に丸が付いたら終わりにせず、過去の確定申告書も確認してください。利益に関する制度との違いは、3,000万円控除と買換え特例で確認できます。
損益通算の上限は「契約前日の残高-売価」
損益通算に使える損失は、税務上の譲渡損失の全額とは限りません。国税庁No.3390は、売買契約日前日の住宅ローン残高から売却価額を引いた額を限度としています。譲渡損失と限度額を計算し、小さい方の範囲で考えます。
以下は仕組みを説明するための仮の例です。適用要件を満たし、取得費は建物の減価償却費相当額を差し引いた後の金額とします。諸費用のうち、税務上の譲渡費用になる額を100万円と仮定しています。
| 項目 | 仮の金額・計算 |
|---|---|
| 売買契約日前日のローン残高 | 2,600万円 |
| 売却価額 | 2,200万円 |
| 取得費/譲渡費用 | 2,800万円/100万円 |
| 税務上の譲渡損失 | 2,800万円+100万円-2,200万円=700万円 |
| 損益通算の限度額 | 2,600万円-2,200万円=400万円 |
| 通算・繰越の対象となる損失 | 700万円のうち400万円 |
この例で400万円は、戻ってくる税金ではありません。他の所得から差し引く対象額です。税負担の軽減額は所得や控除などで変わり、家計に400万円が振り込まれる話ではありません。逆に譲渡損失が200万円なら、限度額が400万円でも対象は200万円です。
決済に必要な現金も別に計算します。仮に決済時の残債も2,600万円で、売却に伴う現金支出が100万円なら、2,600万円+100万円-2,200万円=500万円を補う計算です。実務では契約から決済までの返済で残債が動き、利息や費用も変わります。税の上限に使う日付と、銀行に返す日付を混同しないでください。
繰越は翌年以後3年間、申告は連続して行う
損益通算で控除しきれなかった対象損失は、売却年の翌年以後3年間に繰り越せます。ただし、合計所得金額が3,000万円を超える年は、その年の繰越控除を使えません。売却年の損益通算自体には、この所得制限はありません。
2026年の売却で対象となる損失が残れば、繰越の対象年は2027年・2028年・2029年です。途中の年に所得制限で使えなくても、3年間が延びるわけではありません。給与の年収と合計所得金額も同じ数字ではないため、源泉徴収票と他の所得資料で確認します。
国税庁No.3393では、損失の明細書・対象金額の計算書に加え、所有期間を示す登記事項証明書や売買契約書の写しなどを挙げています。ローンは「売買契約日の前日」の残高証明書が必要です。一般的な年末残高証明書だけで済むとは考えず、金融機関へ対象日を伝えて取得方法を聞きます。
繰越控除を使うには、売却年分について必要書類を添付した期限内申告が必要です。その翌年分から適用する年分まで、損失申告用の確定申告書を連続して提出します。転居等で住所と売った家の所在地が異なる場合には、居住を示す戸籍の附票なども確認します。会社の年末調整だけで処理が終わる制度ではありません。
私は、税負担より先に決済の資金を確かめます
売却を決める順序は、決済時の返済不足を確認し、次に譲渡損失と税負担の見込みを重ねる形です。税金が軽くなる見込みを、決済日に使える現金として数えない。私はこの線を引いてから販売計画を考えます。
制度が使えそうでも、今売る方が家計に良いかは私はまだ判断できません。所得、預金、住み替え先の費用、売れるまでの返済が分からないからです。税負担の軽減だけを理由に価格を下げる判断には賛成できません。売価が下がって控除対象が増えても、その分が全額戻る仕組みではないためです。
当社は買主にならず、買取・買取保証を率先して行いません。そのかわり、仲介手数料を含む売却費用と返済額を並べ、手元に残る額、または持ち出す額を整理します。買取や買取保証という選択自体を否定するものではありません。期限を優先する事情がある場合も、価格・費用・引渡日をそろえて判断材料にします。
今日できる確認は、金融機関へ「売却を検討しているので、一括返済の見込額と、契約日前日を基準とする残高証明書の取得方法を知りたい」と聞くことです。購入時の契約書、ローン契約、過去の申告控えを一つに集めれば、税理士へ具体的に相談できます。資金と登記の順序は、残債がある家を売る際の抵当権抹消の3手順も併せてご覧ください。
出典・確認日:2026年10月1日(2026年10月確認)。国税庁「No.3390 住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたとき」「No.3202 譲渡所得の計算のしかた」「No.3393 特例を受けるための申告手続と添付書類」(いずれも2026年4月1日現在法令等)。制度・期限は改正される場合があります。試算は仮定であり、個別の適用や還付額を示すものではありません。最後は税理士・税務署へ税務を、司法書士へ登記を確認してください。
よくある質問
この損益通算を使うには、新しい自宅の購入が必要ですか?
新しい自宅を買わなくても使える特例です。売却後に賃貸へ移る場合も、国内の居住用資産、所有期間、契約日前日の住宅ローン、売却価額などの要件を満たせば対象になり得ます。2026年4月1日現在の国税庁案内では売却期限は2027年12月31日です。適用除外と申告書類も税理士・税務署へ確認してください。
住宅ローンの返済不足額が、そのまま税金から戻ってきますか?
返済不足をそのまま受け取る制度ではありません。税務上の譲渡損失のうち、契約日前日のローン残高から売却価額を引いた額を上限に、他の所得から控除します。減る税額は所得や控除などによって変わります。決済に必要な持ち出し資金には諸費用も加わるため、控除対象額と別に資金計画を作ってください。
所得が3,000万円を超えると、この特例は使えませんか?
売却年の損益通算自体には所得金額の要件がありません。翌年以後3年間の繰越控除では、合計所得金額が3,000万円を超える年のみ適用できません。給与の年収そのものとは異なる数字です。繰越には売却年分の必要書類付きの期限内申告と、その翌年分から適用する年分までの連続した確定申告も必要です。
SELL WITH CONFIDENCE
早く売る方法ではなく、
多く残す方法から考えます。
無料で相談する →査定・初回相談は無料です。売却をお約束いただく必要もありません。当社が買主になることはありません(買取をお選びの場合は、複数社の見積もりを比較してご提示します)。

文責:大石浩之(富士ヶ丘サービス株式会社 代表取締役/宅地建物取引士 静岡県知事 第027186号)
静岡県磐田市で不動産業を営んでいます。売却のご相談はかんたん入力のフォームから。
記事の内容は公開時点の一般的な情報です。税務・登記・相続の個別のご判断は、税理士・司法書士など各分野の専門家にご確認ください。