任意売却と競売の違い|売主が比べる3項目

住宅ローンの返済を続けるのが難しい。家を売れば区切りがつくと思っても、売ったあとに借金と引越し費用が残るなら、次の暮らしまで考える必要があります。任意売却と競売を比べるとき、売却価格だけを見て決めるのは早いと私は考えます。
大石浩之(磐田市/不動産業)は、宅地建物取引士の立場から、残る債務・諸費用・退去時期を分けて確認する案を示します。磐田市で自宅の売却を考える方も、借入先と現在の手続状況の確認からです。
任意売却は合意による取引、競売は裁判所の手続
任意売却は、返済が難しくなったときに、債権者の承諾を得て通常の不動産取引で売る方法です。競売は、裁判所の法的手続によって不動産を売却する方法です。「任意」は、価格や債務を売主だけで決められるという意味ではありません。
住宅金融支援機構は、通常取引での売却による負債の縮減、条件による費用控除、引渡時期の調整を任意売却の利点として案内しています。一般的に競売より高値を期待できるという説明ですが、個別の成約価格を約束するものではありません。
裁判所が2026年6月25日に掲載した令和7年司法統計年報も確認しました。民事・行政編第101表では、全地方裁判所の「不動産等を目的とする担保権の実行としての競売等」の既済事件総数は11,464件です。対象期間は2025年で、掲載年の2026年とは異なります。
出典:最高裁判所事務総局「令和7年司法統計年報」民事・行政編第101表、冊子69頁・PDF83頁。既済は手続が終了した事件を指し、取下げなども含みます。11,464件は住宅だけの件数でも、売却された家の戸数でもありません。
意外に見落とされるのは、この統計から任意売却と競売の価格差は読めないことです。私は、全国の件数を自宅の値下がり率に置き換えません。「競売なら何割安い」と一律に置くより、物件の査定根拠と債権者の承認条件を確認したいからです。
| 比較項目 | 任意売却での確認 | 競売での確認 |
|---|---|---|
| 残る債務 | 承認された返済充当額と残債の扱い | 配当後に残る債務 |
| 諸費用 | 控除できる費用と自己負担 | 執行費用を含む配当と転居費用 |
| 退去時期 | 債権者・買主と合意できる日程 | 裁判所の進行と引渡しの手続状況 |
比較1:売却額ではなく、返済後に残る債務を見る
任意売却でも競売でも、売却しただけで残る債務が消えるとは扱えません。比較したいのは売却額と、実際に債権者への返済に回る額の両方です。抵当権を消す合意と、残った借金を免除する合意も別の話です。
住宅金融支援機構のパンフレットには、売却代金で完済できない場合の残債務の協議を記した申出書があります。機構の手順を、すべての銀行の共通条件と考えないでください。借入先、保証会社、債権回収会社のうち、誰が現在の窓口なのかを確認します。
私はこう考えます。売却額だけで比べるのは、家計の判断として足りない。売価が上がっても、返済に使えない支出が増えれば、残る債務の減り方は変わります。当社の仲介手数料もその支出の一つです。売主様に有利な数字だけを出す比較にはしたくありません。
たとえば、債務総額を2,400万円、売価を2,000万円、代金から控除する承認済み費用を100万円と仮定します。返済に回せる額は1,900万円、残る債務は500万円です。売価と債務だけを引いた400万円とは、100万円の差があります。
理解のための仮定計算です。債権者は1者、追加の利息・延滞損害金や他の配当はないものとしています。2,400万円-(2,000万円-100万円)=500万円。費用100万円は相場や当社の料金ではなく、控除が承認された仮の合計額です。
同じ前提で売価が2,100万円でも、控除費用が200万円なら返済額は1,900万円です。売価が100万円高いだけでは残債が減らない例になります。実際の比較では債権者ごとの配当、決済までの利息などを入れ、計算基準日もそろえます。
完済できる通常売却の段取りは、抵当権が残る家を売る手順で説明しています。不足が出る場合は、その手順をそのまま進めず、抹消の承諾条件を先に相談する分岐になります。
比較2:諸費用は、金額と支払元を別々に確認する
任意売却の費用は、代金から引けるものと、売主が別に用意するものを分けて比べます。「代金から控除できる」は「無料」と同じ意味ではありません。控除した分だけ返済に回る額も変わります。
住宅金融支援機構は、状況や手続への協力などの条件によって、仲介手数料や抹消登記費用等を売却代金から控除できる場合があると案内しています。延滞損害金の減額も相談に応じられる場合があるという扱いです。費目・上限・承認の有無を照合します。
当社は、費用表に「見積額」「支払先」「控除申請額」「承認済みの額」「売主の持出し額」を並べる案を示します。仲介手数料、登記の費用、残置物処分、引越しなどを一行ずつ置けば、どこが未確定かも見えます。
競売側も売却額だけで終わらせず、執行費用や配当の内容を確認する比較です。任意売却の見積額と、競売の未確定な費用を同じ確定額のように並べるのは避けます。未確認の欄はゼロ円にせず「未確認」と残し、債権者や弁護士に確認します。
引越し代や新居の契約費用をどこから出すかも、家計側の別の欄に置きます。代金から引けると見込んで転居を契約する前に、承認の範囲と支払時期を確認してください。費用控除の相談と生活の相談を並行して進めるのが私の提案です。
売却による返済不足と税務上の譲渡損失は別です。自宅売却の損益通算の条件に当てはまる可能性があっても、申告による税の扱いを、決済当日に使える現金と一緒にしません。適用は税理士や税務署へ確認します。
比較3:退去時期は希望日と合意日を分けて考える
任意売却では引渡時期を調整しやすい利点がありますが、売主の希望日がそのまま通るわけではありません。債権者の手続、買主の資金準備、転居先の入居日を突き合わせて合意できる日を探します。
住宅金融支援機構は、競売と比べて引渡時期を調整しやすく、退去後の生活設計を立てやすいと説明しています。
私は、この余地を評価します。荷物の整理と新居の確保に見通しが立つことは、売価とは別に家計を支えるからです。そのうえで、調整できる期限がわからないまま任意売却を選ぶのは迷います。価格を上げるため販売を延ばす案と、期限内に合意できる価格で進める案では、残債と転居の負担が逆向きに動くことがあります。
当社は「退去したい日」「販売を続けられる期限」「抹消承諾に要する手続」「決済・引渡しの候補日」を別々に書き出す案を示します。裁判所からの書類があれば、日付と事件番号が確認できる形で弁護士などへ相談してください。通知の期限を、一般的な販売期間の目安で置き換えないことです。
任意売却を申し出たことと、競売の進行が止まることも同じではありません。機構のパンフレットの申出書には、成立の見込みがないと判断された場合に競売申立てが行われることがある旨が記されています。申出後も、販売の進捗と法的手続の状況を別々に確認します。
債権者に聞くことを、今日の一枚にまとめる
任意売却と競売の比較を始める日は、売り方を決める日ではなく、確認先と未確定の条件をそろえる日にできます。ただし裁判所などの通知に期限がある場合は、その期限を先に確認します。
- 現在の債権者と連絡窓口はどこか。競売の手続はどの段階か。
- 債務総額の基準日と、元金・利息・延滞損害金の内訳はいくらか。
- 任意売却の申出方法、売出価格の確認方法、価格を変更する際の手順は何か。
- 控除できる費目と承認額はいくらか。残る債務の返済条件は誰と協議するか。
- 抹消の承諾条件、販売の期限、引渡時期について確認すべき事項は何か。
住宅金融支援機構の案内は、未確認の価格で買主を見つけても、抵当権抹消に応じられない場合があると注意しています。
当社は承諾の見通しを飛ばして、成約だけを先に約束しません。代わりに査定根拠・費用表・日程表を用意し、債権者への確認事項を整理します。当社は買取・買取保証を率先して行いません。当社が買主になることはありません。ただし、期限と条件に合う売り方として買取を比較すること自体は否定しません。当社が媒介する場合の仲介手数料も含め、同じ条件で比較します。
抵当権抹消と決済の確認項目は、住宅ローン残債がある実家の売却手順にも整理しています。本記事の比較は、返済不足を自己資金で埋められない場合に、その先の協議まで見るためのものです。
今日できる一歩は、返済予定表と届いた通知を手元に置き、現在の窓口へ相談予約をすることです。私は、売主様の手元に多く残すために、売却額だけでなく残る借金と次の住まいの支出を先に並べます。残債の法的な扱いは弁護士へ、登記は司法書士へ、税務は税理士など専門家へ確認してください。
一次情報・確認日:2026年10月2日。最高裁判所事務総局「令和7年司法統計年報」民事・行政編第101表、裁判所「司法統計に関するお知らせ」、住宅金融支援機構「融資住宅等の任意売却」(2026年4月1日更新)、同機構「任意売却の手続について」パンフレット。
制度や手続、費用条件は変更される場合があります。機構の案内は機構の融資住宅等の手続であり、他の債権者へ一律に適用できるものではありません。個別の抹消承諾、配当、残債処理や退去の判断は、債権者と弁護士・司法書士など専門家へ確認を。
よくある質問
任意売却をすると、残った住宅ローンはなくなりますか?
任意売却は、売っただけで残る債務を免除する手続ではありません。売却代金のうち費用控除や配当を経て返済に回る額と、残る債務を確認します。抵当権抹消の承諾と債務免除も別の話です。住宅金融支援機構の申出書には残債務の協議に関する記載があります。具体的な返済条件や法的な処理は債権者と弁護士へ確認してください。
手元に現金がなくても、任意売却はできますか?
自己資金の有無だけでは判断できません。住宅金融支援機構は、状況や手続への協力などの条件により仲介手数料や抹消登記費用等を代金から控除できる場合があると案内しています。控除は無料という意味ではなく、返済に回る額にも影響します。引越しや新居の費用も分けて、承認される費目・額と持出し額を債権者に確認します。
任意売却を申し出れば、競売は止まりますか?
任意売却の申出だけで競売が止まると考えないでください。住宅金融支援機構の申出書は、成立の見込みがないと判断された場合に競売申立てが行われることがある旨を記しています。すでに手続が進んでいる場合は、その段階と期限を確認します。販売の進捗と裁判所の手続を分け、債権者や弁護士へ停止・取下げの条件を相談してください。
SELL WITH CONFIDENCE
早く売る方法ではなく、
多く残す方法から考えます。
無料で相談する →査定・初回相談は無料です。売却をお約束いただく必要もありません。当社が買主になることはありません(買取をお選びの場合は、複数社の見積もりを比較してご提示します)。

文責:大石浩之(富士ヶ丘サービス株式会社 代表取締役/宅地建物取引士 静岡県知事 第027186号)
静岡県磐田市で不動産業を営んでいます。売却のご相談はかんたん入力のフォームから。
記事の内容は公開時点の一般的な情報です。税務・登記・相続の個別のご判断は、税理士・司法書士など各分野の専門家にご確認ください。