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不動産法

相続不動産の共有問題

分割できない財の処分をめぐる制度と実務

富士ヶ丘サービス株式会社代表取締役 大石 浩之初出 2026.08.23

要旨

相続した不動産が売れないとき、原因は価格にないことが多い。土地と建物は、金銭や上場株式と違って物理的に分けられない。分けられない財を複数の相続人が持てば、処分には全員の意思が要る。この瞬間、売却は市場の問題であることをやめ、合意形成の問題に化ける。本稿の問いは、この化け方がどのような制度の構造から生じ、どこに手をかければ動かせるのかである。

本稿はまず、民法が共有を管理・変更・処分の三層に分けて設計していること、そして売却がその最上層に位置することを確認する。次に、相続によって生じる遺産共有が通常の共有と手続を異にし、遺産分割と共有物分割という二つの経路に分岐することを整理する。そのうえで、拒否権が人数分だけ積み上がる構造を反共有地の枠組みで読み、2021年に成立し2023年に施行された共有制度・相隣関係・相続土地国庫帰属の各改正が、この構造のどこを削ったのかを検討する。

結論として、共有不動産の売却は、価格交渉より前に置くべき三つの工程——名義の現況確認、当事者の確定、分割方法の選択——を持つ。この三つを先に済ませた案件と、値段の話から始めた案件とでは、到達点が異なる。なお相続・登記・税の個別判断は各分野の専門家の職務であり、本稿は構造の見取り図を示すにとどまる。

共有遺産分割共有物分割相続登記所在等不明共有者相続土地国庫帰属制度

1. はじめに——問題の所在

相続した実家が売れない、という相談を受けるとき、最初に確かめるのは物件の状態ではない。名義が誰になっているかである。築年数も間取りも接道も、価格に影響する要素ではあるが、それらは値段の話にすぎない。名義が複数人になっている、あるいは亡くなった方のままになっている場合、値段の話に入る前に別の関門が立ちはだかる。売却の可否が、市場ではなく人の合意に依存する状態に移っているためである。

この移行は、財の性質から必然的に生じる。相続財産のうち、預貯金は円単位で分けられる。上場株式も一株ずつ分けられる。ところが土地と建物は、物理的に分けられない。正確には、分けられないわけではないが、分けた瞬間に価値が大きく損なわれることが多い。二百平方メートルの宅地を二人で百平方メートルずつに分ければ、二つの土地の合計価値は元の土地の価値を下回りうる。接道の幅、建築可能な建物の規模、駐車場の取り方が変わるからである。

経済学の言葉でいえば、不動産は分割不能財に近い性質を持つ。分割不能な財を複数の権利者で持つと、その財を処分するには権利者全員の意思が必要になる。一人でも欠ければ動かない。これが本稿の主題である。

分けられない財
複数の相続人
動かない
分割不能な財を複数人で持つと、処分に全員の意思が要る。相続不動産が動かない理由の多くは、価格ではなくこの構造から生じている。

本稿の問いは二つある。第一に、なぜ相続不動産の売却は合意形成の問題に化けるのか。第二に、その化けた問題を解く経路として、日本の民法と関連法制はどのような装置を用意しているのか。前者は構造の問題であり、後者は制度の問題である。両方を並べないと、実務は動かない。構造だけを語れば嘆きに終わり、制度だけを並べれば手続の一覧表になる。

方法としては、民法の条文構造を軸に据え、そこに制度設計の考え方を補助線として引く。具体的には、共有物の管理と処分を分ける民法の設計思想、拒否権が積み上がることの帰結を論じた反共有地の議論、そして紛争解決のルールを所有権ルールと損害賠償ルールに分けるカラブレイジ=メラムド(1972)の枠組みを用いる。いずれも共有不動産という対象を読むために必要な最小限の道具である。

構成は次のとおりである。第2節で共有という所有形態の三層構造を確認する。第3節で、相続によって生じる遺産共有が通常の共有とどう違うかを整理する。第4節で、合意が壊れる構造を反共有地の枠組みで読む。第5節で、2021年に成立し2023年に施行された共有制度・財産管理制度・相隣関係の改正が何を変えたかを検討する。第6節で分割方法を比較し、第7節で売主となる相続人の実務に落とす。第8節で残された課題を述べる。

註:本稿は不動産の媒介を業とする立場から、共有不動産の売却という場面に必要な制度の見取り図を示すものである。相続分の算定、遺言の効力、登記手続の可否、相続税および譲渡所得課税の個別判断は、弁護士・司法書士・税理士など各分野の専門家の職務に属する。本稿の記述はその判断に代わるものではない。

2. 共有という所有形態の三層構造

民法は第249条以下で共有を定める。共有とは、一つの物を複数人が持分をもって所有する状態をいう。ここで押さえるべきは、共有者が何をできるかが一律ではなく、行為の重さに応じて三つの層に分けられている点である。この三層を混同すると、実務の議論が噛み合わなくなる。

2.1 保存・管理・変更という区分

最も軽い層が保存行為である。共有物の現状を維持する行為で、各共有者が単独でできる。壊れた雨樋を直す、不法占拠者に明渡しを求める、といった行為がこれにあたる。共有物が滅失すれば全員が損をする以上、一人の判断で動けるようにしておくほうが合理的だからである。

中間の層が管理行為である。共有物の性質を変えない範囲での利用・改良を指し、持分の価格の過半数で決する。誰が住むか、どのくらいの期間貸すか、といった判断がここに入る。頭数の過半数ではなく持分価格の過半数である点は、実務上しばしば誤解される。持分二分の一の一人と、四分の一ずつの二人がいれば、頭数では二対一でも持分では拮抗する。

最も重い層が変更行為である。共有物の形状または効用に著しい変更を加える行為で、共有者全員の同意を要する。建物の取り壊し、土地の造成、そして所有権そのものの移転がここに含まれる。売却は、共有物という財を共有者の手から完全に離脱させる行為であるから、この最上層に位置する。

保存は単独
管理は過半数
変更・処分は全員
共有物に対する行為は三層に分かれる。売却は最上層に位置し、共有者全員の同意を要する。過半数では動かせない。

2.2 持分は自由に処分できるが、それは解決にならない

ここで一つの逆説がある。共有物そのものを売るには全員の同意が要るが、自分の持分だけを売ることは各共有者が単独でできる。持分は独立した権利であり、その処分は自由だからである。理屈のうえでは、合意ができない共有者は自分の持分だけを第三者に売って離脱できる。

しかし実務では、この経路はほとんど機能しない。持分を買った第三者は、他の共有者と共同で不動産を使うことになる。自由に使えず、貸すにも過半数の同意が要り、売るにも全員の同意が要る。そのような権利に、持分割合に応じた金額を払う買主は現れにくい。仮に現れるとすれば、他の共有者に対して持分の買い取りや共有物分割を迫ることを事業として行う者に限られる。結果として、持分の売却価格は本来の割合を大きく下回る。分割不能財の一部だけを取り出しても、市場価値がそのまま切り分けられるわけではない。

2.3 共有物分割請求権——共有を終わらせる権利

民法第256条は、各共有者がいつでも共有物の分割を請求できると定める。これは共有という状態が本来暫定的なものだという立法の判断を示している。分割しない旨の契約をすることもできるが、その期間は五年を超えられない。共有を永続させる合意には、法が上限を置いている。

協議が調わないとき、共有者は裁判所に分割を請求できる。ここで重要なのは、この請求権が形成権に近い強さを持つことである。他の共有者が拒んでも、裁判所は分割を命じる。つまり共有は、一人の共有者の意思によって解消できる。合意がなくても出口はある——この一点が、共有不動産をめぐる交渉の背景を規定している。第6節で見るように、その出口の形が有利かどうかは別の問題であるが。

3. 遺産共有——相続で生じる共有の特殊性

相続によって生じる共有は、通常の共有と同じではない。売買や共同出資で生じた共有が、初めから持分を意図して作られたものであるのに対し、相続による共有は誰も選んでいない。被相続人が亡くなった瞬間、遺産は相続人の共有に属する。この状態を遺産共有と呼ぶ。

3.1 誰も選んでいない共有

遺産共有の第一の特徴は、当事者がその状態を選択していないことである。兄弟のうち一人は現金化を望み、一人は残したいと考え、一人は関心を持たない。目的が最初から一致していない集団が、法定相続分という比率で一つの財を持たされる。共同事業として不動産を買った共有者であれば、購入の時点で出口の合意がある。遺産共有にはそれがない。

第二の特徴は、時間とともに当事者が増えることである。共有者の一人が亡くなれば、その持分はさらに次の世代へ相続される。二人の共有が四人になり、四人が八人になる。世代を重ねるうちに、面識のない者どうしが一つの土地を共有する状態が生まれる。所有者不明土地と呼ばれる問題の少なくない部分は、この累積の帰結である。

第三の特徴は、遺産共有が暫定的な状態として設計されていることである。民法は遺産分割という手続を用意し、それによって最終的な帰属を決めることを予定している。遺産共有は、その手続が終わるまでの過渡的な形にすぎない。

選んでいない
世代で増える
暫定のはずが長期化
遺産共有は当事者が選んだ状態ではなく、放置すると相続が重なって当事者が増える。暫定的なはずの形が固定化していく。

3.2 遺産分割と共有物分割——二つの経路

ここで制度は二つの経路に分かれる。遺産共有を解消する手続は遺産分割であり、その場となるのは家庭裁判所である。これに対し、通常の共有を解消する手続は共有物分割であり、その場は地方裁判所である。管轄も、判断の基準も異なる。

違いの中心は、考慮される事情の幅にある。共有物分割は、登記に現れた持分割合を出発点として、その物をどう分けるかを決める手続である。これに対し遺産分割は、遺産全体を見渡し、各相続人の事情を踏まえて配分を決める。民法第906条は、遺産の分割は遺産に属する物の種類・性質、各相続人の年齢・職業・心身の状態および生活の状況その他一切の事情を考慮してすると定める。生前に住宅資金の援助を受けた者がいれば特別受益として、被相続人の療養看護に努めた者がいれば寄与分として、配分に反映されうる。

この差は実務に直結する。不動産だけを取り出して分けるのが共有物分割であり、預貯金も含めた遺産全体の中で不動産の帰属を決めるのが遺産分割である。不動産以外に十分な財産があれば、不動産を一人が取得し他の相続人が預貯金を多く取ることで、不動産を分割せずに済む。逆に遺産の大半が不動産である場合、この調整の余地がない。地方の相続で紛争が長引きやすいのは、遺産に占める不動産の比率が高くなりがちだからである。

3.3 十年という区切り

2021年の民法改正は、この二経路の関係に時間軸を持ち込んだ。相続開始から十年を経過した後の遺産分割については、原則として特別受益および寄与分を考慮せず、法定相続分または指定相続分によることとされた。個別事情を反映する遺産分割の特色が、十年を境に薄れる仕組みである。

同時に、遺産共有と通常の共有が併存する場合の扱いも整理された。相続開始から十年を経過したときは、遺産共有の持分についても共有物分割の手続の中で併せて分割できる道が開かれている。長期間放置された遺産共有を、より簡明な手続に乗せるための設計である。放置は権利を守らない。時間の経過は、主張できる事情を減らす方向に働く。

4. 合意はなぜ壊れるか

制度が出口を用意していても、現実の共有不動産は動かない。第2節で見たとおり共有物分割請求権は強い権利であり、第3節で見たとおり遺産分割の手続も整っている。それでも空き家のまま十年、二十年と置かれる不動産がある。ここでは、合意が壊れる構造を四つの経路に分けて検討する。

4.1 拒否権の集積——反共有地という見方

ハーディン(1968)が描いた共有地の悲劇は、誰もが使えて誰も排除できない資源が過剰に利用され枯渇する現象であった。ヘラー(1998)が指摘したのは、その裏返しである。一つの資源に対して排除する権利が多数の主体に分散すると、資源は誰にも十分に利用されないまま遊休化する。彼はこれを反共有地の悲劇と呼んだ。

共有不動産は、この構造の典型例である。共有者が四人いれば、売却に対する拒否権が四つ存在する。三人が賛成しても、一人が動かなければ売れない。しかも拒否権の行使には費用がかからない。返事をしない、書類に押印しない、という不作為だけで実現する。賛成には手間がかかり、反対には手間がかからない。この非対称性が、共有物を静止させる方向に働き続ける。

なおこの反共有地の枠組み自体の理論的検討は、別稿「共有不動産という反共有地」で扱う。本節では、それが相続不動産という具体的対象でどう現れるかに絞る。

拒否権が分散
一人でも欠ければ
遊休化
売却に必要な同意が人数分だけ積み上がる一方、拒否は不作為で足りる。この非対称性が共有不動産を静止させる。

4.2 留保価格の分散——同じ物件に異なる値段がついている

第二の経路は、共有者ごとに売ってもよいと考える最低額——留保価格——が食い違うことである。市場価格は一つでも、共有者の頭の中の価格は人数分ある。ここに差が生じるのは、価格の見立てが違うからだけではない。前提としている時間軸が違うからである。

遠方に住み固定資産税の負担だけを感じている相続人は、早期の現金化を望む。近隣に住み墓や仏事の管理を担っている相続人は、急ぐ理由を持たない。同じ物件について、一方は毎年の保有費用を数え、他方は将来の値上がりや地域内での使い道を数えている。両者が異なる数字に到達するのは当然である。市場との交渉が始まる前に、共有者間の交渉が必要になる理由がここにある。

4.3 非金銭的価値——価格に翻訳できないもの

第三の経路は、相続不動産に金額へ翻訳しにくい価値が付着していることである。生家である、仏壇がある、農地や山林が代々の管理単位になっている、地域での家名と結びついている。これらは実在する価値だが、市場価格には反映されない。

経済学は通常、こうした選好も金額に換算できると仮定する。しかし実務では、換算そのものを当事者が拒むことがある。売らないという判断が損得計算の結果ではなく、計算に載せること自体への拒絶である場合、金額を上げても合意は近づかない。このとき必要なのは価格の説得ではなく、金銭以外の条件の設計である。仏壇の移転先、墓の管理の引き継ぎ、農機具や残置物の扱い、引渡し時期の調整。これらを先に決めると、価格の話が動き出すことがある。順序の問題である。

4.4 情報の偏在——同じ材料を見ていない

第四の経路は、共有者が同じ情報を見ていないことである。現地に住む相続人は建物の傷み具合を知っている。遠方の相続人は記憶の中の家を基準にしている。一方は解体費用を織り込み、他方は思い出の中の資産価値を基準にする。数字が合わないのは、意見が違うからではなく材料が違うからである。

この経路は、四つのうち最も対処しやすい。査定書、登記事項証明書、公図、現況写真、固定資産税の課税明細を全員に同じ形で配れば、材料は揃う。実務上、合意形成の最初の一手として資料の共有が効くのは、これが原因の一定部分を占めるためである。逆にいえば、一部の相続人だけが情報を握っている状態を続けると、他の相続人は不信を材料に判断することになる。手続を代表して進める者ほど、開示の水準を上げる必要がある。

5. 2023年施行の改正が削った壁

所有者不明土地の増加を背景に、民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)が成立し、共有制度・財産管理制度・相隣関係に関する部分が2023年4月1日から施行された。この改正は、第4節で見た拒否権の集積という構造に正面から手を入れている。何が変わり、何が変わらなかったのかを整理する。

5.1 過半数で動かせる範囲を広げた

改正前は、共有物の変更にあたる行為はすべて全員の同意を要すると読まれてきた。しかし変更にも軽重がある。砂利敷きの土地をアスファルト舗装する行為と、建物を取り壊す行為とを同じ扱いにするのは実態に合わない。改正はここに線を引き、形状または効用の著しい変更を伴わない変更——いわゆる軽微変更——を、持分価格の過半数で決められる管理の側に移した。

また、共有物を使用する共有者がいる場合の扱いや、賃借権等を設定できる期間の上限も明文化された。共有不動産をどう使うかという日常の判断について、全員の同意がなければ何もできないという硬直を緩める趣旨である。ただし売却は依然として最上層にある。ここは動いていない。

5.2 所在の分からない共有者への対処

実務で最も重い障害は、共有者の一部が誰か分からない、あるいは所在が分からないことである。世代を重ねた共有では珍しくない。改正は、この所在等不明共有者について二段構えの仕組みを設けた。

第一に、裁判所の決定を得て、所在等不明共有者を除いた他の共有者で変更または管理を決められる道が開かれた。第二に、より踏み込んだ制度として、裁判所の決定により所在等不明共有者の持分を他の共有者が取得すること、および所在等不明共有者の持分を含めた不動産全体を第三者に譲渡する権限を他の共有者に与えることが可能になった。前者が持分の取得、後者が譲渡権限の付与である。いずれも所在等不明共有者の利益は、時価相当額の供託によって金銭で保護される。

後者は、共有不動産の売却という本稿の主題にとって決定的な意味を持つ。全員の同意という揺るがない前提条件が、初めて手続的に迂回できるようになったからである。ただし遺産共有の持分については、相続開始から十年を経過していることが要件とされる。第3節で見た十年という区切りは、ここでも働いている。

裁判所の関与
持分の取得・譲渡権限
処分の道が開く
所在等不明共有者がいても、裁判所の決定を経て持分を取得し、あるいは全体を譲渡する権限を得る道が用意された。ただし遺産共有には十年の要件がある。

5.3 財産管理制度の組み替え

従来、所有者が不明な不動産に対処する手段は、不在者財産管理人や相続財産の管理人といった人単位の制度に限られていた。ある人の財産全体を管理する枠組みであるため、一筆の土地を処理したいだけの場合には費用が見合わなかった。

改正は、土地・建物という物単位で管理人を選任できる制度を新設した。所有者不明土地管理命令および所有者不明建物管理命令である。あわせて、所有者は判明しているが管理が不全な土地・建物について、管理不全土地管理命令等の枠組みも設けられた。管理の対象を物に絞ることで、費用と手続の重さを実態に近づける設計である。相続財産の管理についても規定が整理され、清算を担う者の位置づけが明確にされた。

5.4 相隣関係——隣が動かないときの手当て

相隣関係の見直しも、同じ改正に含まれる。隣地を使用できる場面が具体化され、他人の土地を経由しなければ電気・ガス・水道等の供給を受けられない場合の設備設置・使用に関する規律が明文化された。越境してきた竹木の枝についても、一定の要件のもとで自ら切り取ることができる旨が定められた。

これらは共有とは別の論点だが、相続不動産の売却実務では隣接地の所有者が不明であることが頻繁に問題になる。境界の立会いを求めようにも相手が見つからない、というかたちで現れる。隣が動かないために売れないという事態に対して、制度は手当てを用意しつつある。もっとも、いずれの手続も裁判所の関与を要し、時間と費用がかかる。制度があることと、それを使うのが得策であることは同じではない。

6. 分割方法の比較——三つの出口と、もう一つの出口

共有を解消する方法は、協議によるものも裁判によるものも、大きく三つに整理できる。現物分割、賠償分割、換価分割である。裁判による共有物分割においては、現物分割または賠償分割によることができないとき、あるいは分割によって著しく価格を損なうおそれがあるときに競売が命じられるという順序が、改正後の民法第258条に明文化された。競売は最後の手段として位置づけられている。

方法内容成立しやすい条件価格面の帰結
現物分割土地を分筆し、それぞれが単独所有する面積が広く、分筆後も各区画が接道と建築可能性を保てる分筆後の合計価値が元を下回ることがある
賠償分割(代償分割)一人が不動産を取得し、他の共有者へ金銭を支払う取得者に支払能力があり、評価額に折り合いがつく評価額の決め方が争点になりやすい
換価分割第三者に売却し、代金を持分に応じて分ける全員が現金化を望む、または裁判上の競売による市場での売却と競売とで手取りが大きく異なる
国庫帰属一定要件を満たす相続等で取得した土地を国に引き取ってもらう建物がなく、担保権や争いがなく、通常の管理を超える負担がない代金は生じず、負担金の納付を要する

6.1 現物分割——分けられる土地は多くない

現物分割は、共有という状態を最も素直に解消する。しかし第1節で述べたとおり、不動産は分けると価値が落ちやすい。分筆後の各区画が接道要件を満たし、建物を建てられる規模を保てるかが分かれ目になる。市街化調整区域であれば、分筆後の区画に建築の見込みがあるかという別の問題も加わる。実務で現物分割が成立するのは、面積に余裕のある土地に限られる。

6.2 賠償分割——所有権ルールと損害賠償ルール

賠償分割は、一人が不動産を取得し、他の共有者に持分相当額を支払う方法である。家業や農地の継続、生家の維持といった非金銭的価値を守りながら、現金化を望む共有者にも出口を与える。ここで有用なのがカラブレイジ=メラムド(1972)の区別である。彼らは権利の保護を、権利者の同意なしには奪えない所有権ルールと、対価さえ払えば移転を認める損害賠償ルールに分けた。共有における全員同意の原則は前者であり、賠償分割は後者への切り替えにあたる。同意が調達できない場面で、金銭による移転を認めることで膠着を破る仕組みだといえる。

問題は評価額である。取得する側は低く、支払いを受ける側は高く見積もる。ここで拠り所になるのが第三者による評価だが、査定額は手法や前提の置き方によって幅を持つ。相続税評価額、固定資産税評価額、公示地価、実際の成約事例——複数の物差しが併存し、どれを使うかで結論が変わる。合意を急ぐなら、評価額そのものを争うより、どの物差しを使うかを先に合意するほうが早い。

同意によるか
金銭で置き換えるか
膠着を破る
全員同意の原則は所有権ルールにあたる。賠償分割は、対価の支払いによる移転を認めることで、同意が調達できない膠着を破る仕組みである。

6.3 換価分割——手続の性質が手取りを決める

換価分割は、不動産を第三者に売って代金を分ける方法である。共有者の誰も取得を望まない場合、これが最も自然な出口になる。ただし同じ換価でも、市場で買主を探して売る場合と、裁判上の競売による場合とでは、到達する金額の水準が異なる。競売は内覧ができず、引渡しの条件も限られ、期日が硬直的である。買主が引き受ける不確実性の分だけ、価格は下がりやすい。競売と任意の売却の価格差については、別稿で扱う。

したがって、共有者全員が売却に同意できるなら、市場での売却を選ぶのが合理的である。当社は自ら買主とはならず、買取・買取保証を率先して行わない。買取という売り方そのものを否定はしないが、共有案件では買主が誰であるかによって全員の手取りが変わるため、立場の異なる者の提案を同じ土俵に並べて比較する必要がある。

6.4 もう一つの出口——引き取り手のない土地

売れない土地も存在する。山林、農地、接道のない土地、管理費用だけがかかり続ける土地。こうした土地について、相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(令和3年法律第25号)が2023年4月27日から施行され、一定の要件を満たす土地を国に引き取ってもらう道が開かれた。建物が建っている土地、担保権等が設定されている土地、境界が明らかでない土地や所有権に争いのある土地などは対象外とされ、承認を受けた場合には負担金の納付を要する。共有地については、共有者全員で申請することが求められる。無条件に引き取ってもらえる制度ではないが、選択肢として計算に入れる価値はある。個別の適否は法務局への相談事項である。

7. 相続人の実務への含意

以上を、相続人が実際に取れる手順に落とす。順序には理由がある。共有不動産の売却では、後の工程で必要になる材料を前の工程で作っておかないと、途中で止まるからである。価格の話は、この順序の中では後ろに位置する。

7.1 まず名義の現況を確認する

登記事項証明書を取り、所有者欄が誰になっているかを見る。被相続人の名義のままか、既に相続人の共有として登記されているか、あるいは祖父母の代の名義で止まっているか。この一点で、以後の作業量が大きく変わる。あわせて公図と地積測量図を取り、筆の数と地目、境界標の有無を確認する。相続不動産では、宅地に見えていた敷地の一部が別地目の筆であったり、私道の持分が漏れていたりすることがある。

登記については、相続登記の申請が2024年4月1日から義務化されている。相続により所有権を取得したことを知った日から三年以内に申請することとされ、正当な理由なく怠った場合には過料の対象となりうる。遺産分割が調わず所有権の帰属が決まらない段階でも、相続人であることを申し出ておく相続人申告登記の仕組みが設けられている。登記名義人の住所等の変更登記についても義務化されている。手続の可否と要否の判断は司法書士の職務であり、早い段階で相談するのが実際的である。

7.2 当事者を確定する

次に、誰が権利者であるかを確定する。被相続人の出生から死亡までの戸籍を辿り、相続人の範囲を確定する作業である。この段階で、面識のない相続人の存在が判明することがある。法定相続情報一覧図を作っておくと、以後の各手続で戸籍一式を繰り返し提出する手間が省ける。

同時に確認すべきことがいくつかある。

  • 遺言があるか。あれば形式と保管の状況を確認し、必要な手続を経る
  • 相続放棄をした者がいるか。放棄によって相続人の範囲は変わる
  • 相続人の中に判断能力に不安のある方、行方の分からない方がいないか
  • 未成年の相続人がいる場合、利益が対立する親が代理できるかという問題が生じる

三つ目と四つ目に該当する場合、成年後見・不在者財産管理人・特別代理人といった手続が前提になる。いずれも家庭裁判所の関与を要し、数か月単位の時間がかかる。売買契約の日程を先に固めてから判明すると、契約が組み直しになる。

名義を確認
当事者を確定
出口を決める
共有不動産の売却は、名義の現況確認・当事者の確定・分割方法の選択という三工程を先に置く。価格の話はその後に来る。

7.3 出口の形を先に決める

第6節の三つの方法のうち、どれを目指すのかを、価格の議論に入る前に共有者間で確認する。全員が現金化を望むのか、一人が取得して他に金銭を払うのか。ここが定まらないまま査定を取ると、同じ数字が人によって高すぎたり安すぎたりする。取得を望む者にとって評価額は支払額であり、現金化を望む者にとっては受取額である。立場が逆であることを共有者自身が理解しているかどうかで、話し合いの温度が変わる。

換価分割を選んだ場合、媒介契約の締結、売買契約の締結、決済と引渡しのそれぞれの場面で共有者全員の意思表示が必要になる。遠方に住む相続人がいるなら、代理人を立てるのか、書類を持ち回るのかを最初に決めておく。印鑑証明書には有効期限の扱いがあり、取得の時期も逆算して段取りする。

7.4 期限のあるものから逆算する

相続には期限のある手続が複数ある。相続税の申告は、相続の開始があったことを知った日の翌日から十か月以内である。相続財産を譲渡した場合に相続税額の一定部分を取得費に加算できる特例には、相続税の申告期限の翌日以後三年を経過する日までという期間の要件がある。被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例にも、期間と物件についての要件がある。

これらは売却時期の判断に直結する。ただし適用の可否は個別事情に依存し、要件の細部も時々の税制改正で動く。本稿は期限が存在するという事実を指摘するにとどめ、金額の計算と適用判断は税理士の職務として引き渡す。第4節で見た留保価格の食い違いは、税引き後の手取りを共有者ごとに試算すると縮まることがある。手取りの数字は、税の専門家に出してもらう価値がある。

7.5 進め方そのものを合意しておく

最後に、実務上もっとも効くにもかかわらず省略されやすい工程を挙げる。誰が窓口となり、どの頻度で、何を全員に報告するかを最初に決めることである。第4節で見たとおり、合意が壊れる経路の一つは情報の偏在にある。窓口を一人に絞ることは効率的だが、その一人だけが情報を持つ状態は不信を生む。査定書も、問い合わせの件数も、価格を見直す判断の理由も、同じ形で全員に届ける。この設計を先に済ませておくと、意見の相違が不信に転じにくい。

8. 結論と今後の課題

相続不動産の売却が難しいのは、不動産が高いからでも、市場が薄いからでもない。分割できない財を、選んでいない複数の人間が持たされるからである。本稿の答えを三点にまとめる。

第一に、民法は共有物への行為を保存・管理・変更の三層に分け、売却を最上層に置いている。過半数では動かせない。この設計は各共有者の権利を守るためのものだが、同時に拒否権を人数分だけ生み出す。賛成には手間がかかり、反対は不作為で足りる。この非対称性が、共有不動産を静止させ続ける。

第二に、相続によって生じる遺産共有には、通常の共有にない性質がある。当事者が選んでいないこと、放置すると世代を重ねて当事者が増えること、そして遺産分割という別の手続が予定されていることである。十年という区切りを境に、考慮される事情が減り、手続の選択肢が変わる。時間は権利を守らない。

第三に、2023年施行の改正は、この構造の一部を確かに削った。所在等不明共有者の持分の取得と譲渡権限の付与により、全員同意という揺るがない前提条件は、初めて手続的に迂回できるようになった。物単位の管理人制度も新設された。ただし、いずれも裁判所の関与と時間と費用を要する。制度が用意されたことと、それを使うのが最善であることとは別である。多くの場合、当事者が話し合える段階で話し合うほうが、到達点は良い。

制度は整いつつある
時間は味方でない
手取りに効く
制度の整備は進んだが、いずれも時間と費用を要する。放置の期間が長いほど選択肢は狭まり、最終的な手取りに響く。

8.1 本稿の限界

本稿は制度の構造を整理したものであり、実証分析ではない。共有者の人数と売却の成否の関係、遺産分割にかかる期間の分布、賠償分割における評価額の決まり方といった論点は、いずれも事例に即した検証を要する。ここで示したのは、どこを見ればよいかという見取り図にすぎない。

また、繰り返しになるが、相続分の算定、遺言の効力、登記手続の可否、相続税および譲渡所得課税の適用判断は、弁護士・司法書士・税理士の職務に属する。不動産の媒介を業とする者にできるのは、市場での価格の見立てと売却の段取り、そして各専門家への引き継ぎ点を早い段階で示すことまでである。境界を越えて判断すれば、当事者の不利益になる。

8.2 地方における共有問題という論点

共有の問題は、市場の厚みによって現れ方が変わる。買い手が多い地域では、共有者間の合意さえ調えば売却は進む。買い手が乏しい地域では、合意が調っても出口が見つからない。静岡県磐田市は人口およそ16万3千人・7万2千世帯(2026年7月末現在)であり、住宅地の公示地価は1平方メートルあたり50,086円(2026年地価公示に基づく市の平均)と、大きく上がりも下がりもしない市場である。北隣の森町は人口およそ1万6千人(2026年4月1日現在)で、土地の相場は磐田市のおよそ半分の水準にある。

こうした地域では、共有の解消が売却の必要条件ではあっても十分条件にはならない。逆にいえば、買い手が現れたときに動ける状態を作っておくことの価値が、都市部より高い。名義を整え、当事者を確定し、出口の形を共有者間で決めておく。この準備は買い手が現れる前にしかできない。準備のない共有不動産は、機会が来ても取り逃がす。

8.3 別稿に投げる論点

本稿が扱えなかった論点を三つ挙げておく。第一に、拒否権の分散が資源の遊休を生む構造そのものの理論的検討。第二に、競売と任意の売却との価格差が、手続のどの性質から生じるかの分解。第三に、多数の関係者を抱える案件をどう束ねるかという運営の技術である。いずれも共有不動産の実務に直結する主題であり、稿を改めて論じる。

最後に一点だけ加えておく。共有不動産の相談を受けたとき、最も避けるべきなのは、結論を急いで一部の共有者だけと話を進めることである。手続的に可能であっても、後から加わった不信は評価額の議論を長引かせる。時間をかけるべき場所とかけるべきでない場所があり、当事者を揃える工程は前者に属する。制度がどれだけ整っても、この順序だけは変わらない。

参考文献

  1. 民法(明治29年法律第89号)第249条以下「共有」、第256条以下「共有物の分割」
  2. 民法(明治29年法律第89号)第906条以下「遺産の分割」
  3. 民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)——共有制度・財産管理制度・相隣関係の見直し
  4. 相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(令和3年法律第25号)
  5. 不動産登記法(平成16年法律第123号)第76条の2・第76条の3
  6. 法務省「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し」
  7. 法務省「相続土地国庫帰属制度について」
  8. 国税庁「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」
  9. 国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」
  10. 裁判所「遺産分割調停」手続案内
  11. ギャレット・ハーディン(1968)「コモンズの悲劇」
  12. マイケル・A・ヘラー(1998)「アンチコモンズの悲劇——マルクスから市場への移行における財産権」
  13. グイド・カラブレイジ/A・ダグラス・メラムド(1972)「所有権ルール、損害賠償ルール、不可譲性——大聖堂の一つの眺め」
  14. ロナルド・H・コース(1960)「社会的費用の問題」
  15. 磐田市「磐田市の人口 令和8年度」(2026年7月末現在)
富士ヶ丘サービス株式会社 代表取締役 大石 浩之

大石 浩之

富士ヶ丘サービス株式会社 代表取締役
宅地建物取引士(静岡県知事 第027186号)

富士ヶ丘サービス株式会社 代表取締役。宅地建物取引士(静岡県知事 第027186号)。静岡県磐田市見付5789番地1で不動産業を営む。

自社で買い取る事業を持たず、仲介一本で売主の側に立つことを事業の前提に置いている。買主になれば「安く買いたい人」になり、同じ口で価格の妥当性を説明できなくなる、という理由による。買取・買取保証という売り方そのものは否定せず、売主が選んだ場合は買主にならずに複数社の見積もりを比較する立場に回る。

同社は不動産業のほか、磐田市内で介護事業を営む。高齢期の住み替え、施設入居、実家の処分という一連の局面に事業として接してきたことが、本シリーズの問題意識の背景にある。

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