1. はじめに——問題の所在
媒介契約を結んで二週間ほど経つと、多くの売主が同じことをする。自分の家の名前や住所を検索窓に打ち込み、インターネット上に出た自分の物件の広告を見るのである。そして、たいていの場合そこで初めて、自分の家がどんな写真で、どんな順番で、どんな言葉とともに他人の目に触れているかを知る。撮影の日に立ち会っていても、それがどう並べられるかまでは見ていない。
ここに一つの奇妙な構造がある。不動産ポータルサイトへの掲載を申し込むのは仲介業者であり、掲載の費用を負担するのも仲介業者である。売主とポータル運営会社のあいだには、通常なんの契約関係もない。売主は自分の物件の広告について、注文主ではなく受益者の位置に置かれている。金を払っていない者は、仕様を指定する立場にも、履行を問う立場にも立ちにくい。
この位置関係が、売主から見た掲載の問題をすべて生んでいる。掲載の量と質を決めるのは業者であり、順位を決めるのはポータルの仕組みであり、売主が直接に動かせるものは物件そのものと売り出し価格しかない。にもかかわらず、そこで生じた閲覧数の多寡は、価格改定の判断材料として売主のもとに返ってくる。決められないものの結果だけを引き受ける構造である。
1.1 本稿の問い
問いは二つある。第一に、掲載順位が広告費の多寡で決まる構造は、売主の利益とどこまで一致し、どこから離れるのか。第二に、写真枚数・間取り図の有無・更新日といった、買主の側から観察できる指標は、閲覧と問い合わせにどう作用し、売主はそれをどこまで設計できるのか。前者は市場の構造の問題、後者は個別の掲載の設計の問題である。
1.2 方法と、本稿が扱わないこと
方法は理論的な整理である。二面市場の理論と、情報開示をめぐる理論の二つを手がかりに、掲載という現象の構造を取り出す。実証分析ではないため、写真を何枚にすれば閲覧が何割増えるといった数値は示さない。示せるのは、どの変数がどの向きに効くと考えられるか、そしてその読み取りがどこで裏切られるかである。
本稿は特定のポータル運営事業者を名指しで論じない。理由は二つある。一つは、各社の掲載基準や表示順位の決め方が公開されておらず、外部から検証できないこと。もう一つは、それらが継続的に変更されるため、個別の仕様に依拠した議論はすぐに古くなることである。本稿が扱うのは、広告費が表示の位置を動かしうる媒体一般に共通する構造であり、どの事業者が良いか悪いかという評価ではない。
以下、第2節でポータルを二面市場として定式化する。第3節で掲載順位が何をめぐる競争なのかを、注意という希少資源の観点から検討する。第4節でその競争と売主の利益の一致とずれを分解し、第5節で観察可能な指標が買主の推論に与える作用を扱う。第6節はその指標が目標になったときの副作用、第7節は取引の薄い地域での働き方を論じる。第8節で実務に落とし、第9節で限界を述べる。
なお筆者は静岡県磐田市で不動産の媒介を業とする者であり、掲載の費用を負担する側の当事者である。自社で買い取る事業を持たず、報酬は成約時の媒介報酬のみである。この報酬構造が広告投資の判断にどう効くかは第4節で正面から扱う。立場を隠したまま中立を装うことはしない。
2. 二面市場としてのポータル
不動産ポータルサイトを、単なる広告掲示板として見ると本質を取り逃がす。ここで起きているのは、二つの異なる利用者群を同じ場に集め、その出会いを仲立ちすることであり、経済学ではこれを二面市場(two-sided market)と呼ぶ。ロシェ=ティロール(2003)やアームストロング(2006)が定式化した枠組みである。
2.1 間接ネットワーク外部性という骨格
二面市場を特徴づけるのは、間接ネットワーク外部性である。ある側の利用者が増えると、その利用者自身ではなく反対側の利用者の便益が上がる。物件を探す人が多いほど、掲載する業者にとってその媒体の価値は上がる。掲載物件が多いほど、探す人にとっての価値も上がる。二つの側は互いに相手を引き寄せる。
この相互依存があるため、プラットフォームの成否は片側の質だけでは決まらない。物件が一件も載っていない検索サイトは誰も見に来ないし、誰も見に来ないサイトには誰も物件を載せない。最初にどちらかの側を無償や低廉な条件で集め、その厚みを梃子にしてもう一方から回収する。これが二面市場に共通する価格構造の非対称である。
2.2 どちらの側から回収するか
不動産ポータルの場合、この非対称は明快である。物件を探す側——買主候補——は原則として無償で閲覧でき、掲載する側——仲介業者——が費用を負担する。理論的にはこれは自然な設計である。二面市場では、価格に敏感で他へ移りやすい側の負担を軽くし、その側の厚みから利益を得る側に費用を寄せることが、プラットフォーム全体の利用者数を最大にしやすい。
買主候補は複数のポータルを併用する。ある物件を探すのに一つの媒体しか見ないという人はまれで、複数を横断しながら比較する。この行動は複数所属(マルチホーミング)と呼ばれる。これに対し、仲介業者の側も複数媒体に出稿しうるが、出稿するほど費用は積み上がるため、実際には配分の判断が働く。費用を負担する側にだけ選択の痛みが生じる非対称が、ここでも重なっている。
2.3 三者目としての売主
ここで本稿が強調したいのは、この二面のどちらにも売主が入っていないことである。プラットフォームから見た顧客は仲介業者であり、利用者は買主候補である。売主は、業者を通じて間接的にしか場に接続していない。売主が支払っているのは媒介報酬であって掲載料ではないから、掲載の内容について媒体に対して何かを求める立場にはない。
この構造は、しばしば「売主のための広告」という語り方によって覆い隠される。掲載は売主の物件を売るために行われるのだから、売主のための広告ではある。しかし、誰の判断で、誰の費用で、誰の基準に従って行われるかを分解すると、売主はいずれの決定点にも立っていない。この不在を自覚することが、掲載を設計する出発点になる。
註:ポータルと仲介業者のあいだの力関係——集客を媒体に依存するほど広告費が上がり交渉力が下がる構造——は、それ自体が独立した論点である。本稿はそこに立ち入らず、売主から見た掲載の設計に主題を限る。
3. 掲載順位は何をめぐる競争か
検索条件を入れて表示された一覧を、人は上から順に見る。下まで見る人もいるが、その数は上に行くほど多く、下に行くほど急速に減る。この単純な事実が、掲載順位という変数に価値を与えている。順位は、物件そのものの属性ではなく、物件が獲得する注意の量を規定する変数である。
3.1 希少なのは情報ではなく注意である
サイモン(1971)は、情報が豊かになるほど情報が消費するもの——すなわち受け手の注意——が希少になる、という趣旨のことを述べた。不動産の検索一覧は、この命題がそのまま当てはまる場である。地域と価格帯を指定すれば数十件から数百件が並ぶ。買主候補が一件あたりに割ける時間は数秒しかない。情報の総量が増えるほど、一件が得られる注意は減る。
したがって掲載をめぐる競争は、情報を出す競争ではなく、注意を得る競争である。同じ内容の情報でも、見られる位置にあるか否かで価値が変わる。スティグラー(1961)が探索費用の理論で示したように、買い手は費用に見合う範囲でしか探索を続けない。探索を打ち切られた地点より下にある物件は、存在していないのとほとんど変わらない。
3.2 順位を動かす三つの層
順位を動かす要素は、大きく三つの層に分けて考えられる。第一に、買主が指定した検索条件との適合度。地域・価格帯・面積・間取りといった条件に近いほど上に来る。第二に、掲載情報の鮮度と充足度。更新日が新しいこと、必須の項目が埋まっていることが評価される。第三に、掲載プランや広告の枠に対する支払いである。
第一の層は売主と買主の利害が一致する。条件に合う人に条件に合う物件を見せることは、双方にとって望ましい。第二の層も、おおむね一致する。情報が揃った掲載を上に出すことは、探索の無駄を減らす。問題は第三の層である。支払額で位置が動く部分は、物件の質とも買主の条件適合とも無関係な軸で並び順を決める。
3.3 位置をめぐる入札という視点
支払いで表示位置が決まる仕組みは、広く見れば位置をめぐるオークションである。ヴィックリー(1961)以降のオークション理論が示すのは、限られた枠に対して支払意思の高い者から順に割り当てられるという結果である。検索連動型の広告における位置の配分についても、こうした枠組みで分析する研究群がある。
この結果自体は効率的でありうる。上位の位置は、そこから得る利益が大きい者に割り当てられるからである。ただし、ここでいう「利益が大きい者」とは広告費を負担する仲介業者であって、売主ではない。ある物件が上位に来るのは、その物件が良いからでも、その売主が急いでいるからでもなく、その物件を扱う業者がその媒体にその金額を投じる判断をしたからである。
売主の側から見れば、これは自分の順位が他人の財布と他人の戦略の関数になっているということである。同じ地域に同じ条件で並ぶ二つの物件のうち、上に出るほうが良い物件だとは限らない。買主候補もまた、この事実を明示的には知らされない。順位という表示が、質の順序であるかのように読まれうるところに、この設計の情報上の問題がある。
4. 順位への支出は、売主の利益と一致するか
前節で、順位の一部が支払意思によって決まることを見た。では、その支払いを決める仲介業者の判断は、売主の利益とどこまで揃うのか。結論から言えば、方向は揃うが水準は揃わない。方向が揃うのは報酬が成約時にしか発生しないからであり、水準が揃わないのは報酬が価格に比例するからである。
4.1 方向は揃う
媒介の報酬は成約したときにのみ発生する。売れなければ広告費は回収されず、そのまま損失になる。したがって仲介業者には、売れるように広告を打つ誘因がある。露出が増えれば買主候補が増え、候補が増えれば競合が生まれ、価格発見が働きやすくなる。ここまでは売主の利益と同じ方向を向いている。
売主が自力でこれを代替することは難しい。個人が同じ媒体に同じ規模で出稿することは通常できず、できたとしても問い合わせの受け答え、内覧の調整、資料の作成まで自前で行う必要がある。掲載の費用と手間をまとめて引き受ける主体がいることそれ自体は、売主にとって明確な利益である。
4.2 水準は揃わない
ずれが生じるのは投資の水準である。報酬は成約価格に一定率を乗じて決まる。広告を追加投下して成約価格が数十万円上がったとしても、報酬の増分はその一部にとどまる。他方、広告費の増分は全額が業者の負担である。つまり、価格を上げるための追加投資は、業者から見れば費用の大半を負担して便益の一部しか受け取らない投資になる。
その結果、投資は「売れる水準」で止まりやすく、「最も高く売れる水準」までは伸びにくい。この構造は媒介関係一般に共通するもので、報酬設計の問題として別に論じられるべきものである。ここで重要なのは、その止まる位置が売主からは観察できないという点にある。掲載されている事実は見えるが、どの規模で、どの枠で、いつまで出稿されているかは見えない。
| 論点 | 売主の利益と一致する部分 | 離れる部分 |
|---|---|---|
| 露出の方向 | 売れなければ報酬がないため、露出を増やす誘因が働く | 露出の相手が絞られているかまでは問われない |
| 投資の水準 | 成約に必要な水準までは投じられる | 価格を押し上げるための追加投資は回収されにくい |
| 物件間の配分 | 扱う物件が売れることは共通の利益 | 同一業者が扱う他物件との枠の奪い合いが起きる |
| 観察可能性 | 掲載されている事実は売主も確認できる | 出稿の規模・期間・枠の種類は売主に見えない |
4.3 「熱心さ」を広告費で測ることの誤り
以上から、一つの実務上の教訓が出る。広告費を多く投じている業者が売主にとって良い業者だ、という読み方は成り立たない。広告費は、その業者が抱える他の物件との配分の結果でもあり、その媒体との取引条件の結果でもある。売主の物件に対する熱意の指標としては、雑音が多すぎる。
より確かなのは、掲載の中身が具体的かどうかである。第5節で述べるとおり、写真・図面・記載事項の充足は、費用ではなく手間の投入によって決まる。手間は物件ごとに個別に投じられるため、その物件がどう扱われているかを比較的よく映す。売主が見るべきは、順位ではなく中身である。
註:複数社に同時に依頼する一般媒介では、他社に成約をさらわれる確率が上がるため各社の広告投資が減りうる。この論点は依頼の類型そのものの分析に属するため、本稿では扱わない。
5. 観察可能な指標——写真・図面・更新日
順位が業者の判断で決まるのに対し、掲載の中身は物件ごとに個別に作られる。買主候補は物件の質を直接には確かめられないから、掲載の中身を手がかりに質を推し量る。ここで働いているのは、スペンス(1973)以来のシグナリングの論理である。観察できる指標が、観察できない質の代理として読まれる。
5.1 書かれていないことは、悪いと読まれる
情報開示の理論には、開示が自発的に進むという有名な議論がある。グロスマン(1981)とミルグロム(1981)が示したのは、次の理屈である。良い情報を持つ者は開示する。すると開示しない者は、残された者のなかで最も良くない者だと推定される。その推定を避けるために、残された者のうち相対的に良い者がまた開示する。これが繰り返され、最後には黙っている者だけが最悪だと分かる。
この論理は掲載の読み方に直結する。写真が三枚しかない物件は、写真を三枚しか撮れなかった物件だと読まれる。水回りの写真がない物件は、水回りが良くないのだろうと読まれる。実際には、単に撮影に手間をかけなかっただけかもしれない。しかし買主にはその区別がつかず、区別がつかない以上、悪いほうに寄せて推定するのが合理的である。
つまり掲載の不足は、中立ではなく不利に働く。何も言っていないつもりの空白が、悪い知らせとして読まれる。これが、掲載の中身を売主が気にすべき第一の理由である。
5.2 三つの指標が伝えているもの
写真枚数は、量そのものよりも網羅性が読まれる。外観・玄関・居室・水回り・収納・眺望・接道の各面が揃っているかどうかが、隠していないことの証拠として機能する。枚数を増やしても同じ角度の似た写真が並ぶだけなら、網羅性は上がらない。効果は逓減し、ある枚数を超えると閲覧の伸びは鈍るとされる。
間取り図の有無は、写真とは性質が異なる。図面がない掲載は、比較の土俵にそもそも乗りにくい。買主は複数の候補を並べて動線と面積配分を比べるが、図面がなければ比較の作業ができないため、候補から外れる。図面は加点要素というより、欠落したときの減点が大きい項目である。
更新日は二重の意味を持つ。一方で、新しい日付は探索の対象として選ばれやすく、多くの媒体で表示順にも影響する。他方で、同じ物件が長く並び続けていることは、売れ残りの徴候として読まれる。鮮度を保つ操作は閲覧を呼ぶが、掲載開始からの経過そのものは隠せない。この二面性が、更新をめぐる実務を難しくしている。
| 観察できる指標 | 買主が読み取る意味 | 売主が確かめること |
|---|---|---|
| 写真の枚数と網羅 | 隠している面がないか。生活の想像がつくか | 外観・水回り・収納・接道が揃っているか |
| 間取り図の有無 | 他の候補と比較できるか | 図面が載っているか。方位と接道が分かるか |
| 更新日・掲載期間 | 新しい情報か。売れ残っていないか | 情報の変更が反映されているか |
| 記載事項の充足 | 調べる手間が省けるか | 土地面積・接道・築年・設備の欄に空白がないか |
| 説明文の具体性 | 実際に見て書かれたものか | その物件でしか書けない事実が入っているか |
この表の右列は、いずれも売主が自分の目で確かめられる項目である。掲載の順位が誰の判断で決まっているかを知る術はないが、自分の物件の掲載に何が書かれ何が欠けているかは、公開されている画面を見れば分かる。売主に開かれている数少ない観察の窓が、ここにある。
6. 指標が目標になるとき——シグナルの摩耗
前節で見た指標は、質を映す鏡として働くうちは有用である。しかし、指標が広く知られると、指標そのものを動かす行動が生まれる。鏡に映る像を良くするために、鏡の前だけを整える。このとき指標は質との対応を失い、シグナルとしての力を摩耗させる。
6.1 三つの摩耗の形
第一は、写真の演出である。広角の撮影、光量の調整、家具の配置は、いずれも物件をよく見せる。程度が過ぎると、掲載で受けた印象と現地の印象に落差が生まれる。閲覧は増え、問い合わせも増えるが、内覧で落胆した買主は戻ってこない。ここで増えたのは買主候補ではなく、失望する人の数である。
第二は、更新日の操作である。実質的な変更がないのに掲載を出し直し、日付だけを新しくする運用がありうる。短期的には新着として拾われる。しかし同じ物件を継続して見ている買主は、内容が変わらないまま日付だけが動くことに気づく。気づかれた時点で、更新日は情報を運ばなくなる。
第三は、閲覧数という指標そのものの扱いである。閲覧数は測りやすく、報告にも載せやすい。だが閲覧は購入意思ではない。価格を相場より低く見せれば閲覧は増えるし、写真を派手にしても増える。閲覧数だけを目標にすると、成約に結びつかない方向へ努力が向かう。
6.2 摩耗しにくい指標とは何か
では、摩耗しにくい指標はあるか。理論的な答えは明快である。偽装に費用がかかる指標ほど、シグナルとして持続する。スペンスの枠組みで、教育がシグナルとして働くのは、能力の低い者ほど同じ学歴を得る費用が高いからであった。同じ論理を掲載に当てはめれば、質の低い物件ほど提示の費用が高くなるような情報が、摩耗しにくい。
具体的には、第三者が作成した書面がこれにあたる。建物状況調査の結果、測量図、耐震診断の報告、修繕の履歴を示す領収書や図面。これらは売主が自分で書ける文章とは違い、内容を都合よく変えることができない。写真を何枚増やすより、こうした書面が一点あるほうが、伝わる情報は多い。
不利な情報の自主的な記載も同じ性質を持つ。浸水想定区域への該当、越境の有無、雨漏りの履歴。これらを自ら書くことは、その売主が隠す方針を取っていないことの証拠になる。書く費用は、隠したい売主ほど高い。第5節の空白の論理と表裏の関係にあり、開示を先に行う戦略の理論的な根拠でもある。
註:掲載内容の表現には、不動産の表示に関する公正競争規約による制約がある。徒歩所要時間の算定や、修繕・改装の表示、取引態様の明示などが定められており、演出の余地はこの枠内に限られる。
7. 取引の薄い地域で、ポータルはどう働くか
ここまでの議論は、買主候補が十分に多いことを暗黙の前提としていた。順位の競争が意味を持つのは、上位に来なければ埋もれるほど掲載が多い場合である。取引の薄い地域では、この前提が成り立たない。同じ理論が、違う結論を出す。
7.1 競争は緩く、母数も小さい
掲載件数が少なければ、検索一覧は数ページで終わる。上位に出るための競争は緩く、広告費を積む意味も小さい。その代わり、そもそもその条件で検索する人の数が少ない。都市部では順位が閲覧を左右するが、薄い市場では、閲覧の総量そのものが制約になる。打つべき手は、順位を上げることではなく、検索する人の範囲を広げることである。
この点で、ポータルには地元の媒体にない強みがある。距離の制約を受けないため、通勤圏の隣接市で家を探している層や、県外の再販業者にも同時に届く。磐田市の物件を、袋井市や浜松市で探している人が見る。森町の物件を、袋井市・掛川市への通勤を前提に検討する人が見る。地域の掲示板ではこの範囲に届かない。
7.2 地域の数値が示す前提
静岡県磐田市の人口は163,224人、世帯数は72,421世帯である(磐田市「磐田市の人口 令和8年度」、2026年7月末現在)。住宅地の公示地価は1平方メートルあたり50,086円、前年比プラス0.16パーセントで、大きく上下しない市場である(2026年地価公示に基づく市町村別平均)。周智郡森町の人口はおよそ15,900人(2026年4月1日時点)、土地の相場は1平方メートルあたりおよそ26,900円が平均の目安とされる。
この規模の市場では、同一条件で並ぶ物件は多くない。買主候補が一件ずつ丁寧に見る余地があり、掲載の中身が読まれる確率は都市部より高い。逆に言えば、写真の不足や図面の欠落は都市部以上に響く。少ない閲覧のうち一件を落とす損失が、母数の小ささゆえに大きいからである。
7.3 露出と秘匿のあいだ
薄い市場には、もう一つ固有の事情がある。人口の少ない町では、売りに出したこと自体が短期間で伝わる。地域の付き合いや仏事の関係から、売却を知られたくないという要望は珍しくない。この要望は、掲載の設計と正面から衝突する。
調整の幅はある。現地看板を出さない、折込を打たない、掲載する写真から特定につながる要素を外す、といった段階がある。ただし公開の範囲を絞るほど買主候補は減り、価格に影響する。ここで売主に示すべきなのは、どこまで絞るとどれだけ候補が減るかという対応関係であって、秘匿しながら高く売れるという説明ではない。線をどこに引くかは、売主が決める事柄である。
8. 売主の実務への含意
以上を、売主が実際に取れる手順に落とす。順序に意味がある。掲載が始まってから直せることは限られており、直した時点で最初の露出はすでに終わっているためである。掲載の設計は、売り出しの前に済ませる仕事である。
8.1 媒介契約を結ぶ前に決めておく
掲載についての取り決めは、媒介契約の締結時に言葉にしておく。契約書に書かれていなくても、口頭で確認し記録に残せば足りる。決めるべきは、どの媒体に出すか、写真を誰がいつ撮るか、間取り図を用意するか、そして掲載内容を売り出し前に売主が確認する機会を設けるか、の四点である。
- 掲載する媒体の名称と、掲載を始める日を確認する
- 撮影の日程を決め、天候と時間帯を選べるようにしておく
- 間取り図を作成するかどうか、作成する場合の元図面の有無を確認する
- 公開前に掲載内容の確認用の画面または印刷物を見せてもらう
- 売却を知られたくない範囲があれば、その範囲を先に伝える
四つ目が最も効く。誤記や欠落は、公開前に見れば数分で直る。公開後に気づけば、その間の閲覧はすべて不完全な情報のもとで行われたことになる。買主候補は一度見て候補から外した物件を、もう一度見に来ることは少ない。
8.2 売り出す前に用意する素材
掲載の質は、当日に撮る写真ではなく、その前の片付けと書類でほぼ決まる。残置物のある部屋は、どれだけ上手に撮っても部屋の広さが伝わらない。撮影の前に、少なくとも撮る予定の部屋だけは物を減らす。日中に撮れるよう、雨戸とカーテンを開けられる状態にしておく。
書類は、第6節で述べた摩耗しにくいシグナルにあたる。登記事項証明書と公図、測量図があればその写し、増改築や修繕の履歴が分かるもの、建物状況調査を受けているならその結果。これらは掲載そのものには載らないことも多いが、問い合わせを受けた業者が買主に示す材料になり、内覧から申込までの距離を縮める。
8.3 売り出したあとに数えるもの
掲載後に見るべき数字は、閲覧数ではない。閲覧数は媒体ごとに定義が異なり、比較もできず、購入意思とも結びつかない。分けて数えるべきは、問い合わせの件数、内覧の件数、申込の件数の三つである。この三段階のどこで止まっているかによって、打つ手が変わるからである。
- 問い合わせが少ない——掲載の中身か、価格の見え方に原因がある
- 問い合わせはあるが内覧に至らない——掲載と現地条件の食い違いを疑う
- 内覧はあるが申込がない——価格そのもの、または物件固有の障害を疑う
この三段階の歩留まりは、宅地建物取引業法が定める業務処理状況の報告に含めてもらうことができる。報告の頻度は法が定めるが、内容の粒度は当事者の取り決めに委ねられている。何を数えて報告するかを媒介契約の時点で決めておけば、報告は形式ではなく判断の材料になる。
最後に、掲載の見直しと価格の見直しを混同しないことである。写真を足す、図面を作る、説明文を書き直すことで動くのは、掲載の中身に原因がある場合に限られる。内覧まで進んだうえで申込がないなら、原因は掲載ではない。掲載を直し続けることで価格の判断を先送りする、という失敗が起こりやすい局面である。
9. 結論と今後の課題
本稿は、不動産ポータルサイトを二面市場として読み、掲載順位が広告費で決まる構造と、掲載の中身が買主の推論を左右する構造の二つを分けて論じてきた。結論は二つの命題にまとめられる。
第一に、順位は売主が動かせないし、動かす価値も限られている。順位への支出を決めるのは費用を負担する仲介業者であり、その判断は成約に必要な水準で止まりやすい。売主が広告費の多寡から業者の熱意を読もうとしても、そこには他物件との配分や媒体との取引条件といった雑音が多すぎる。順位は、売主にとって観察もできず制御もできない変数である。
第二に、掲載の中身は売主が動かせるし、動かす価値がある。写真の網羅、間取り図の有無、記載事項の充足、説明文の具体性は、費用ではなく手間の投入で決まる。そして買主は、そこにある空白を中立ではなく悪い知らせとして読む。売主が関与できる余地は、順位ではなくこちらにある。
9.1 本稿の限界
本稿は理論による整理であり、実証ではない。写真の枚数と閲覧数の関係、間取り図の有無と問い合わせ率の関係については、媒体側が保有するデータでなければ確かめられない。そのデータは公開されておらず、外部の分析は間接的な観察に頼らざるをえない。本稿が示したのは、どの変数がどの向きに効くと考えられるかという枠組みにとどまる。
また、各媒体の表示順位の決め方は非公開であり、継続的に変更される。本稿は広告費が表示位置を動かしうる媒体一般の構造を扱ったが、実際の重みづけがどうなっているかは分からない。個別の事業者について評価的な記述を避けたのは、この検証不能性を理由とする。
9.2 別稿に委ねる論点
本稿が意図的に触れなかった論点が三つある。一つは、ポータルと仲介業者のあいだの力関係である。集客を媒体に依存するほど広告費が上がり交渉力が下がるという構造は、業者の側の戦略の問題であり、売主から見た掲載の設計とは別の主題になる。
二つ目は、業者間の情報流通の仕組みとの関係である。指定流通機構への登録は、買主候補ではなく業者に情報を届ける制度であり、一般の閲覧に開かれたポータルとは設計思想が異なる。両者は代替ではなく補完の関係にあるが、その分担のあり方は制度側の論点として別に扱う必要がある。
三つ目は、掲載開始からの経過日数と成約確率の関係である。第5節で更新日の二面性に触れたが、新着として扱われる期間の効果や、滞留が長引いたときの読まれ方は、価格改定の設計と切り離せない。掲載の設計だけで解ける問題ではなく、期間と価格をあわせて扱う枠組みが要る。
最後に一つ、実務者としての観察を記しておく。掲載を見直して問い合わせが増えたとき、売主も業者も、掲載が原因だったと考えたくなる。しかし同じ時期に相場が動いていたのかもしれないし、競合物件が売れて相対的に目立ったのかもしれない。掲載の設計は、できることの少ない領域で確実にできる数少ない仕事である。だからこそ、その効果を過大に見積もらないことも、同じくらい実務的な態度だと考えている。
