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都市計画法制

市街化調整区域の資産価値

建築可能性はどのように価格へ転写されるか

富士ヶ丘サービス株式会社代表取締役 大石 浩之初出 2026.08.23

要旨

市街化調整区域の土地は安い、という命題は、実務ではほとんど自明のように語られる。しかし何が安さを生んでいるのかを問うと、答えはにわかに曖昧になる。本稿は、都市計画法の区域区分(線引き)と開発許可の制度を資産価値の側から読み直し、価格を押し下げている当のものを特定する。

結論を先に述べれば、価格を決めているのは区域の名称ではなく、その土地で建物を建てられるか、建て替えられるかという一点である。そしてこの建築可能性は、買主の効用を通じてだけでなく、住宅ローン審査と担保評価という金融の経路を通じて、より強く価格に転写される。買主が現金を持っているかどうかで、同じ土地の値が変わる。

本稿はさらに、確定した不許可より不確定な状態のほうが価格を削ることがあるという逆説を扱う。調整区域は一様な区域ではなく、条例による指定区域、農地が混在する区画、線引き以前からの集落が混在する不均質な空間である。第7節では、売主が売り出し前に確かめるべき項目を順序立てて示す。

市街化調整区域区域区分開発許可都市計画法34条住宅ローン審査建築可能性磐田市

1. はじめに——問題の所在

静岡県磐田市で不動産の相談を受けていると、同じ言い回しに何度も出会う。市街化調整区域だから安い、というものである。売主も、買主も、ときには専門職までがこの一文を前提として話を始める。ところが、なぜ安いのかと問い返すと、答えは急に頼りなくなる。建てられないから、と言う人がいる。しかし現にそこには家が建っており、人が住んでいる。売れないから、と言う人もいる。しかし取引は成立している。

この曖昧さは、実害を伴う。原因が特定できていないため、対処のしようがないからである。安さの原因が区域の名称そのものにあるなら、売主にできることは何もない。しかし原因が別のところ——たとえば、その土地で建て替えができるかどうかが誰にも確かめられていないという状態——にあるなら、売主にできることは残っている。この違いは、実際の手取りに数百万円の幅として現れうる。

本稿の問いは、市街化調整区域という制度上の区分が、どのような経路をたどって個別の土地の価格になるのか、である。制度から価格までの距離は、しばしば考えられているより長い。そのあいだには、買主の選好、金融機関の担保評価、住宅ローンの審査、再売却の見込み、そして課税というそれぞれ別の仕組みが挟まっている。経路を分解しないまま「調整区域だから」と一括りにすると、どこが効いていてどこが効いていないのかが見えない。

都市計画区域
区域区分
建てられるか
制度上の区分から個別の土地の価格までには距離がある。あいだに挟まる仕組みを分解しないと、対処すべき場所が見えない。

1.1 なぜ磐田市から論じるのか

この問題は、地方都市では例外的な論点ではない。磐田市の都市計画に関する資料では、市の総人口のおよそ45%が市街化調整区域に居住しているとされる(本稿執筆時点で参照できる磐田市の都市計画資料による)。同市の人口は163,224人(2026年7月末現在、磐田市「磐田市の人口 令和8年度」)であるから、単純に掛け合わせれば7万人規模の住民が調整区域で暮らしていることになる。

この数字が示しているのは、市街化調整区域が特殊な区域ではないという事実である。都市計画法の条文を字面どおり読めば、そこは市街化を抑制すべき区域であり、人が住むことを積極的に予定した場所ではない。ところが現実には、市の人口の半分近くがそこに住んでいる。制度の設計と土地利用の実態のあいだにある、この開きこそが、価格の分かりにくさの源泉である。

さらに、比較の対象も近くにある。磐田市の北に接する周智郡森町は、市街化区域と市街化調整区域の区分を持たない非線引き都市計画区域である。同じ遠州の里山的な環境でありながら、一方には線引きがあり、他方にはない。線引きという制度が価格に何をしているのかを見るうえで、この対比は有用である。

1.2 本稿の方法と構成

本稿は実証分析ではない。制度の条文と実務の観察を突き合わせ、価格が決まる経路を論理的に分解する作業である。統計的な推定値は示さない。示すのは、どこを見れば価格の根拠が分かるかという地図である。

以下、第2節で線引き制度の構造を確認し、区域区分が土地所有者のあいだに何を配分したのかを整理する。第3節で建築可能性がどのように決まるかを、開発許可と建築許可の枠組みから読み解く。第4節では建築可能性が価格に転写される四つの経路を分解し、第5節で不確実性そのものが価格を削る構造を扱う。第6節では調整区域が一様でないことを類型に分けて示し、第7節で売主の実務に落とす。第8節は結論と限界である。

2. 線引き制度は何を配分したのか

区域区分——実務でいう線引き——の制度は、1968年に全面改正された都市計画法によって導入された。都市計画法第7条は、都市計画区域について、無秩序な市街化を防止し計画的な市街化を図るため必要があるときは、市街化区域と市街化調整区域との区分を定めるものとしている。市街化区域はすでに市街地を形成している区域およびおおむね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域、市街化調整区域は市街化を抑制すべき区域と定義される。

2.1 抑制すべき区域という言葉の含意

ここで注意したいのは、市街化調整区域が「開発してはならない区域」とは書かれていない点である。条文の語は抑制であって禁止ではない。実際、後述する開発許可の枠組みは、一定の類型については許可の余地を残している。この設計は、線引きが土地利用の全面的な凍結ではなく、開発の速度と場所を行政が制御する仕組みであることを示している。

制御されるのは速度と場所だけではない。線引きは、公共投資の投下先を集約するための装置でもある。上下水道、道路、学校といった都市基盤の整備には、面積に比例して費用がかかる。市街地が拡散すればするほど、一人あたりの基盤維持費は上がる。線引きは、この費用の膨張を抑えるための空間的な線引きでもあった。人口減少局面に入った現在、この論理はむしろ強まっている。

2.2 線が引かれた瞬間に起きたこと

資産価値の観点から見るとき、線引きの本質は、開発する権利を空間的に再配分した点にある。線の内側に入った土地は、宅地として開発できる見込みを制度によって裏づけられ、その分だけ価値が上がった。線の外側に置かれた土地は、同じ見込みを制度によって減じられ、その分だけ価値が下がった。地形も日照も接道も変わっていないのに、告示という行政行為だけで価値が動いた。

この再配分は、土地所有者から見れば偶然に近い。線がどこを通るかは、個々の所有者の努力とも投資とも関係がない。都市計画の分野では、こうした規制による価値の増減を開発利益と開発損失として論じる系譜がある。線引きは、その最も大規模で、最も持続的な事例のひとつである。

都市計画法7条
引かれた線
価値の再配分
線引きは開発する権利を空間的に再配分した。土地の物理的な条件は変わらないまま、告示という行政行為によって価値が動いた。

2.3 三つの区域を並べる

線引きの意味を理解するには、線引きのない区域と並べるのが早い。都市計画区域には、区域区分を定めた区域と定めていない区域(非線引き都市計画区域)があり、さらに都市計画区域の外もある。磐田市と袋井市は線引きのある区域、森町は非線引き都市計画区域である。

観点市街化区域市街化調整区域非線引き都市計画区域
制度上の性格計画的に市街化を図る市街化を抑制する区分を設けない
用途地域定めるものとされる原則として定めない定める区域と定めない区域がある
建物を建てる際の主な関門建築基準法・用途地域の制限都市計画法の開発許可・建築許可建築基準法・用途地域の制限
都市計画税原則として課税される原則として課税されない課税区域は都市計画で定める
近隣の例磐田市の市街地磐田市の市街地の外側森町の全域

表の最終行が示すとおり、磐田市と森町は地理的に隣接しながら制度上はまったく異なる空間である。森町では、調整区域だから建てられないという説明はそもそも成り立たない。かわりに効いてくるのは用途地域の指定と農業振興地域の区分である。制度の名前ではなく、その土地で建物を建てられるかどうかを一つずつ確かめるほかない、という本稿の主張は、この対比からも導かれる。

註:都市計画税は原則として市街化区域内の土地・家屋に課される(地方税法第702条)。調整区域に課税されないことは、保有費用の面では所有者に有利に働く。抑制の対価として基盤整備の便益も薄いという関係にあり、価格の低さと保有費用の低さは同じ制度の表と裏である。

3. 建築可能性はどのように決まるか

市街化調整区域の土地について、買主が最初に知りたいのは一つである。ここに家を建てられるのか。あるいは、いま建っている家を壊して建て直せるのか。この問いに答える枠組みが、開発許可と建築許可である。制度の全体像を、資産価値に効く部分に絞って再構成する。

3.1 二つの門——開発許可と建築許可

都市計画法第29条は、一定規模以上の開発行為について都道府県知事等の許可を要するものとしている。開発行為とは、主として建築物の建築を目的とする土地の区画形質の変更をいう。造成を伴って宅地を作り出す行為が典型である。これに対し、区画形質の変更を伴わない建て替えは、開発行為には当たらない。そこで市街化調整区域については、都市計画法第43条が別に建築許可の仕組みを置いている。

この二本立てを押さえておかないと、実務で混乱が起きる。更地に新築するのか、既存の家を建て替えるのかで、通る門が違うからである。売主が行政の窓口で確認するときも、どちらの話をしているのかを明示しないと、噛み合わない回答を持ち帰ることになる。

3.2 技術基準と立地基準

開発許可の基準は、性格の異なる二種類に分かれる。都市計画法第33条が定めるのは技術基準である。道路の幅員、排水施設、給水施設、防災上の措置といった、開発された宅地が備えるべき物理的条件を定める。これは市街化区域でも調整区域でも共通に適用される。

これに対し第34条が定めるのは立地基準であり、市街化調整区域に固有である。同条は、調整区域における開発行為は各号に列記された類型のいずれかに該当する場合でなければ許可してはならない、という構造をとる。つまり技術的に問題のない優れた計画であっても、類型に当てはまらなければ許可されない。ここが、市街化区域との決定的な違いである。

資産価値の観点から重要なのは、この構造が持つ二値的な性格である。技術基準は費用をかければ満たせる。排水が足りなければ設備を入れればよい。しかし立地基準は費用では動かない。該当するかしないかであり、中間がない。価格が連続的でなく階段状に動くのは、この非連続性に由来する。

立地基準
類型に該当するか
許可
技術基準は費用をかければ満たせるが、立地基準は該当するかしないかで中間がない。この非連続性が価格を階段状に動かす。

3.3 実務で頻出する類型

第34条の各号のうち、住宅の売買で問題になるものを挙げておく。条文の細部は都道府県・市の運用によって差があるため、ここでは骨格だけを示す。

  • 第11号——市街化区域に隣接し、または近接し、市街化区域と一体的な日常生活圏を構成していると認められ、おおむね50以上の建築物が連たんしている地域のうち、条例で指定された区域における開発行為。いわゆる条例指定区域である
  • 第12号——周辺の市街化を促進するおそれがなく、市街化区域内で行うことが困難または著しく不適当と認められる開発行為で、条例で区域・目的・予定建築物の用途を限って定められたもの。分家住宅がここに位置づけられる運用が多い
  • 第14号——開発審査会の議を経て、周辺の市街化を促進するおそれがないと認められるもの。個別審査の受け皿として機能する
  • 第1号——日常生活に必要な物品の販売・加工・修理等の店舗など。住宅ではないが、店舗併用の物件では関係する

実務で最も見落とされやすいのは、農林漁業を営む者の居住用建築物、いわゆる農家住宅である。都市計画法第29条は、農林漁業の用に供する建築物および農林漁業を営む者の居住用建築物の建築を目的とする開発行為を、許可を要しないものとしている。この規定によって建てられた住宅は、農林漁業の従事者が住むという前提で建てられている。その前提が外れる場合——たとえば農業を営まない第三者へ売却する場合——には、用途の変更について別に手続きが必要になる。売主自身がこの経緯を知らないまま売り出し、契約直前に判明する事例が起きる。

3.4 既存宅地という制度の残像

現地で話を伺っていると、既存宅地だから大丈夫、という言葉に出会うことがある。かつて都市計画法には既存宅地に関する規定が置かれ、線引き前から宅地であった土地について、許可を要さずに建築できる仕組みがあった。この制度は2000年の都市計画法改正で廃止され、一定の経過措置を経て、現在は条例による区域指定などの枠組みに引き継がれている。

つまり、既存宅地という語は制度としては過去のものである。にもかかわらず言葉だけが地域に残り、建築可能性を保証する呪文のように使われている。この言葉を根拠に売り出された物件が、買主の融資審査の段階で止まる。売主に悪意はない。制度が変わったことを知らされる機会がなかっただけである。制度の改正から四半世紀が経ってなお、この残像が取引を止めているという事実は、行政と業界の情報伝達の課題として記録しておく価値がある。

4. 建築可能性が価格へ転写される四つの経路

建築可能性が価格を左右することは、実務では経験的に知られている。しかし、それがどの経路を通って価格になるのかを分けて考える人は少ない。経路は少なくとも四つあり、それぞれ働き方が違う。効いている経路を特定できれば、打てる手も変わる。

4.1 第一の経路——買主の利用可能性

最も直感的な経路である。買主がその土地を自分の望む用途に使えるかどうかが、支払意思額を決める。建て替えができない土地は、既存の建物を使い続ける以外の選択肢を持たない。建物が朽ちれば、土地は建物のない土地として残る。この経路は、買主が土地に見出す効用を直接に削る。

ただし、この経路の効き方は買主の類型によって大きく違う。既存の建物をそのまま使いたい買主にとって、建て替えの可否は将来の話にすぎない。資材置き場や駐車場として使いたい買主にとっては、そもそも建物が要らない。隣地の所有者にとっては、自分の敷地に付け足せることのほうが重要である。建築可能性が価格をゼロに近づけるのは、住宅用地としての用途しか想定しない場合に限られる。

4.2 第二の経路——金融、すなわち担保評価と住宅ローン審査

本稿が最も重視するのはこの経路である。日本の住宅取得の多くは借入によって行われる。したがって買主の支払能力は、買主の資力そのものではなく、金融機関がいくら貸すかによって決まる。そして金融機関の貸出額は、返済能力の審査と、担保となる不動産の評価の両方に規定される。

担保評価において、再建築の可否は決定的な意味を持つ。金融機関が担保に期待するのは、返済が滞った場合に処分して回収できることである。建て替えのできない土地は、処分の相手が限られる。したがって評価額は低く見積もられ、あるいは担保として受け入れられないことがある。住宅ローンの商品によっては、対象となる住宅が関係法令に適合していることを条件としているものもある。

この経路の帰結は独特である。買主が現金で買う場合には価格が下がりにくく、借入で買う場合には大きく下がる。同じ土地の値段が、買主の資金調達方法によって変わる。市場価格という一つの数字が存在しない、と言ってもよい。売主から見れば、買主層を現金購入層に寄せることが価格を守る手段になりうるが、現金購入層は薄い。薄い層に賭ければ販売期間が延びる。価格と期間のあいだの交換が、ここでも顔を出す。

買主
担保評価
支払える額
買主の支払能力は本人の資力ではなく金融機関がいくら貸すかで決まる。再建築の可否は担保評価を通じて価格に転写される。

4.3 第三の経路——出口の見込み、すなわち再売却可能性

第三の経路は、買主がさらにその次の買主を想像することで働く。人は不動産を買うとき、多かれ少なかれ将来の売却を意識する。転勤、家族構成の変化、相続。買った土地が将来も売れる見込みがあるかどうかは、いま支払う金額に織り込まれる。

建て替えのできない土地は、将来の買主にとっても同じ制約を持つ。制約は時間とともに解消せず、むしろ建物の老朽化とともに重くなる。この見通しが、現在の買主の提示額を押し下げる。第二の経路が現時点の金融機関の判断を通じて働くのに対し、この経路は将来の市場に対する予想を通じて働く。両者は独立ではなく、互いを強め合う。将来売れないと予想されるから金融機関が評価しない。金融機関が評価しないから将来売れない。

4.4 第四の経路——保有費用と課税

第四の経路は、他の三つとは向きが逆である。市街化調整区域では、都市計画税が原則として課されない(地方税法第702条)。固定資産税の評価においても、宅地の評価は利用の状況と周辺の状況を反映するため、市街化区域の同種の土地より低く評価されることが一般的である。保有し続ける費用は、市街化区域より軽い。

保有費用が軽いということは、売り急ぐ理由が小さいということでもある。理論的には、これは売主の交渉力を支える要因になる。しかし現実には、この軽さが別の帰結を生んでいる。保有費用が軽いために、判断が先送りされる。空き家のまま十年、二十年と置かれ、そのあいだに建物は傷み、相続が発生して所有者が増える。保有費用の軽さは、意思決定を遅らせるという形で、結局は資産価値を削っている。

経路働く仕組み価格への向き売主が動かせる余地
利用可能性買主の効用を直接に削る下げる用途の想定を広げる
金融(担保・審査)借入可能額を制約する強く下げる可否の根拠を事前に示す
再売却の見込み将来の市場への予想下げる制約の内容を明確化する
保有費用・課税都市計画税の非課税等上げる(売り急ぎを弱める)先送りの誘因に注意する

四つを並べると、売主が最も動かせるのは第二の経路であることが分かる。利用可能性も再売却の見込みも、土地の客観的な条件に依存する。しかし金融機関の判断は、情報が不足しているために安全側に倒れている部分を含む。可否の根拠を書面で示せれば、その部分は取り戻せる。次節では、この情報不足がどれほどの重みを持つかを検討する。

5. 不確実な状態は、不許可より高くつくことがある

建築可能性をめぐる状態は、二つではなく三つある。建てられる、建てられない、そして分からない。実務で最も多いのは三つ目である。そして本節の主張は、この三つ目の状態が、しばしば二つ目より価格を削るということである。

5.1 買主は期待値ではなく最悪値で評価する

建て替えの可否が確認されていない土地を前にした買主は、何を考えるか。教科書的には、許可が下りる確率を見積もり、それぞれの場合の価値を加重平均した期待値で評価するはずである。しかし実際にはそうならない。買主は最悪の場合を想定して価格を組み立てる。

理由は単純である。買主にとってこの取引は一度きりだからである。多数の物件に分散して投資している主体であれば、期待値で判断してよい。個々の物件で外れても、全体では平均に収束する。ところが自宅を一つ買う個人には、収束させる母数がない。外れれば、生涯で最大級の買い物を失敗したことになる。この状況で最悪値を基準にするのは、非合理ではなく合理的である。

したがって、不確実な状態の土地は、建てられない土地とほぼ同じ価格帯で評価される。ここまでなら、単に情報が足りないという話にすぎない。問題は、そこに二つの費用が上乗せされることである。

5.2 上乗せされる二つの費用

第一は、調査費用である。分からない状態を解消するには、行政の窓口に照会し、要件を読み解き、場合によっては専門職に相談しなければならない。買主がこれを負担するなら、その費用は提示額から差し引かれる。買主が負担したがらない場合には、そもそも検討の対象から外れる。

第二は、時間のリスクである。契約後に建築不可が判明すれば、住宅ローンの審査は通らず、融資特約によって契約は解除される。買主にとっては数か月の探索が無駄になる。売主にとっては、その数か月ぶん物件が市場から消え、再び売り出したときには新着ではなくなっている。滞留期間の長い物件は、それだけで何か問題があると見なされる。つまり一度の白紙解除は、失われた時間だけでなく、その後の価格そのものを削る。

この二つを合わせると、不確実な状態は、確定した不許可より不利になりうる。不許可が確定していれば、少なくとも買主層を正しく選べる。資材置き場を探している事業者、隣接地の所有者、既存建物をそのまま使いたい買主。彼らにとって建て替えの可否は決定的ではない。確定した情報は、たとえ不利な内容であっても、届けるべき相手を特定させてくれる。

5.3 制度の最低線は、価格が決まる時点に間に合わない

ここで制度の役割を確認しておく。宅地建物取引業法第35条は、宅地建物取引業者に対し、都市計画法・建築基準法その他の法令に基づく制限について、契約が成立するまでのあいだに重要事項として説明することを義務づけている。したがって、建築可能性に関する情報が最終的に買主に届かないということはない。

しかし、この義務が果たされるのは契約が成立するまでの段階である。一方、価格が実質的に決まるのは、売り出し価格を設定する時点と、買主が申込みを入れる時点である。制度の最低線は、価格が決まる時点より後ろに置かれている。この時間差が、不確実性の費用を売主に負担させる。

この構造は、制度の欠陥というより、制度の役割の限界である。重要事項説明は取引の安全を守るための仕組みであって、売主の手取りを最大化するための仕組みではない。売主が手取りを守りたいなら、制度が要求する時点より前に、自分の判断で情報を確定させるほかない。

分からない
融資で止まる
失われた期間
価格の下落
不確実な状態は最悪値で評価されたうえ、調査費用と白紙解除のリスクが上乗せされる。確定した不許可より高くつくことがある。

6. 調整区域は一様な空間ではない

ここまで市街化調整区域を一つの区域として論じてきたが、この扱いには限界がある。同じ調整区域と呼ばれる空間の内部に、価格の付き方がまったく異なる土地が混在している。磐田市の人口のおよそ45%が調整区域に居住しているという事実は、そこに一様でない生活の集積があることを意味している。本節では、売却の観点から意味のある類型に分けて整理する。

6.1 五つの類型

以下の分け方は制度上の分類ではなく、買主の探し方が変わる単位としての分類である。同じ市内でも、この類型が違えば別の市場だと考えたほうがよい。

  • 条例指定区域内の宅地——市街化区域に隣接・近接し、建築物が連たんしている地域のうち条例で指定された区域。建築の見込みが立ちやすく、価格も市街化区域に近づく
  • 線引き以前からの集落内の宅地——古くからの住宅地。建て替えの可否は個別の経緯と現在の運用に依存し、確認しなければ分からない
  • 分家住宅として許可を得た住宅——特定の要件を満たす者のために建てられた経緯を持つ。第三者への売却では、用途に関する手続きの要否を確認する必要がある
  • 農家住宅——農林漁業を営む者の居住用として、許可を要さずに建てられた住宅。農業を営まない買主に売る場合、前項と同様の確認が要る
  • 宅地に農地が接続する区画——宅地部分と農地部分で適用される法が異なる。農地法の手続きと農業振興地域の区分(農用地区域か否か)が、売り方そのものを分ける

第三と第四の類型は、実務で特に注意を要する。建物が現に建ち、人が住んでいる以上、売主は当然に売れるものと考える。ところが、その建物が建てられた際の前提が買主に引き継がれるとは限らない。この論点は登記事項証明書には現れない。所有者本人の記憶と、行政の記録に当たるほかない。

6.2 農地が混ざるとき、問題は二重になる

第五の類型は、遠州の里山では珍しくない。相続した実家の登記を確認すると、宅地のほかに畑や田の筆が出てくる。ここでは都市計画法の建築可能性と、農地法の権利移動・転用の可否という、性格の異なる二つの制約が重なる。

農地法は、農地の権利移動(第3条)、農地の転用(第4条)、転用を目的とする権利移動(第5条)を許可の対象としている。さらに農業振興地域の整備に関する法律に基づく農用地区域、いわゆる青地に入っている土地では、転用の許可はまず期待できない。宅地として売れるという前提が、この段階で崩れることがある。

実務的な帰結は明快である。全筆をまとめて一人に売ろうとすると、買える相手がほとんどいなくなる。地目・面積・接道・農振区分で筆ごとに一覧を作り、出口を分けて考えるほうが、結果として早く決まり手取りも大きくなることが多い。まとめて片付けたいという心情と、分けたほうが有利という計算は、しばしば逆を向く。

6.3 公的な地価指標は、この差を映さない

類型ごとの差は大きいが、公的な地価指標からは読み取りにくい。磐田市の住宅地の公示地価の平均は1平方メートルあたり50,086円、前年比プラス0.16%である。駅ごとに見れば、磐田駅周辺が57,111円(前年比プラス0.51%)、豊田町駅周辺が44,160円(マイナス0.03%)、2020年に開業した御厨駅周辺が43,242円(プラス0.10%)となる(いずれも2026年地価公示に基づく市町村別・駅別の平均値)。

これらの数値は市街地を中心とする指標であり、調整区域の個別の土地の水準を直接に示すものではない。にもかかわらず、坪単価の平均に面積を掛けるという計算が、しばしば売主の頭の中で行われる。平均から出発する推定は、類型による差が大きい市場では誤差が大きい。調整区域の価格は、平均からの補正としてではなく、その土地で何ができるかから組み立てるべきである。

6.4 線引きのない町との対比

磐田市の北に接する周智郡森町は、区域区分を持たない非線引き都市計画区域である。したがって、調整区域だから建てられないという説明は森町では成り立たない。かわりに効くのは用途地域の指定と農業振興地域の区分である。土地の相場は2026年時点で1平方メートルあたりおよそ26,900円(前年比マイナス0.74%)とされ、磐田市の住宅地平均のおよそ半分の水準である。

興味深いのは、線引きがない森町のほうが平均単価は低いという事実である。線引きの有無だけが価格を決めているのなら、この関係は逆になるはずである。実際に効いているのは、都市への近接性、雇用の所在、生活施設までの距離といった、線引き以前からある地理的条件である。線引きはそれらの条件の上に重ねられた制度であって、単独で価格を決めているのではない。この点を見誤ると、調整区域という語だけを見て安すぎる価格で手放すことになる。

7. 売主の実務への含意

ここまでの議論を、売主が実際に取れる手順に落とす。順序には理由がある。前の工程で確定させた情報が、後の工程の材料になるからである。順序を入れ替えると、やり直しが生じる。

7.1 自分の土地がどこに立っているかを確定する

最初にすべきは、その土地が市街化区域か市街化調整区域か、調整区域であれば条例で指定された区域に入っているかを確認することである。市町村の都市計画に関する図面と、担当課での照会で確認できる。磐田市であれば都市計画課がこの照会先にあたる。

同時に、登記事項証明書と公図を取得し、筆の数、地番、地目、面積を書き出す。宅地だけだと思っていた敷地に、雑種地や畑の筆が混ざっていることは珍しくない。ここで全体像を紙に落としておくと、以降の照会で行政の担当者と話が噛み合う。

7.2 建築可能性の見込みを、担当課で確認して記録に残す

次が本稿の中心にあたる工程である。その土地で建て替え・新築の許可が見込めるかを、建築を所管する部署に照会する。磐田市であれば建築住宅課が窓口となる。照会の際は、更地への新築なのか既存建物の建て替えなのかを区別して尋ねる。第3節で述べたとおり、通る門が違うからである。

重要なのは、確認したという事実を記録に残すことである。いつ、どの課で、誰に、何を尋ね、どのような回答であったか。この記録があると、買主とその金融機関に対して、可否の根拠を口頭ではなく書面で示せる。第4節で見たとおり、金融の経路は情報不足のために安全側へ倒れている部分を含む。書面はその部分を取り戻す道具である。

順に確認
書面で残す
融資が通る
手取りが残る
確認した内容を書面に残せば、金融機関の判断が情報不足で安全側へ倒れる部分を取り戻せる。口頭の見込みは融資審査を通らない。

7.3 建物が建てられた経緯を洗う

現に建っている建物が、どの根拠で建てられたのかを確かめる。分家住宅として許可を得たのか、農林漁業を営む者の居住用として建てられたのか、線引き以前から存在していたのか。建築確認の記録、当時の申請書類、家族の記憶が手がかりになる。

この工程を飛ばすと、契約直前に前提が崩れる。第6節で述べたとおり、この論点は登記事項証明書には現れない。売主が知らないことを、買主が知る手立てはさらに乏しい。知らないまま売り出すことは、隠すことと結果においてほとんど変わらない。

7.4 農地が混ざるなら、筆ごとに出口を分ける

宅地に農地が接続している場合は、筆ごとに地目・面積・接道・農振区分を一覧にする。そのうえで、住宅として売る筆、農地として売る筆、隣接地の所有者に打診する筆を分ける。まとめて売ろうとして止まるより、分けて動かすほうが早いことが多い。

7.5 確定した情報を前提に、届ける相手を選ぶ

ここまでで、建築可能性は三つの状態のいずれかに確定しているはずである。見込みが立つ場合は、その根拠を販売資料に明記して、住宅を探す一般の買主層に届ける。見込みが立たない場合は、住宅用地としての訴求をやめ、別の買主層に向ける。

  • 既存の建物をそのまま使いたい買主——建て替えの可否より、現在の建物の状態と価格を重視する
  • 隣接地の所有者——自分の敷地に付け足す目的であれば、建築可能性の重みは相対的に小さい
  • 事業用の需要——資材置き場、駐車場など、建物を前提としない用途
  • 現金で購入する買主——第4節の金融の経路が働かないため、価格の下押しが小さい

不利な情報を先に出すことは、短期的には値引きの材料を渡すように見える。しかし条件を承知した買主だけが内覧に来るため、内覧数は減っても成約までの距離は短くなる。逆に伏せて売り出せば、重要事項説明の段階で判明し、そこから価格交渉が始まるか、契約が流れる。同じ情報が、出す順序によって交渉の材料にも安心の材料にもなる。

7.6 買取の提案を受けたときに確認すること

調整区域の物件では、買い取りたいという申し出を受けることがある。その際にまず確認すべきは金額ではなく、相手の立場である。その会社がその取引の買主なのか、買主を探す仲介なのか。買主にとって査定額は自社が支払う金額であり、仲介にとっては市場で目指す金額である。同じ語が正反対の性格を帯びる。

買取という売り方そのものを否定する必要はない。期限が動かせない事情のもとでは、それが最も合理的な選択になることもある。ただしその場合も、同一の条件を書いた資料を複数の買取会社に同時に提示し、金額を並べて比較する余地は残る。なお筆者の会社は自ら買主となる事業を持たず、買取・買取保証を率先して行わない。査定額が支払う金額になった瞬間に、低く見積もることが自社の利益になるという構造を避けるためである。

8. 結論と今後の課題

市街化調整区域の資産価値は、区域の名称によって決まっているのではない。決めているのは、その土地で建物を建てられるか、建て替えられるかという建築可能性であり、それが四つの経路を通って価格に転写される。本稿の結論を、順に確認しておく。

第一に、線引きは開発する権利を空間的に再配分した制度であり、土地の物理的条件を変えないまま価値を動かした。第二に、建築可能性を決めるのは都市計画法第34条の立地基準であり、この基準は費用で満たせる技術基準と違って該当するかしないかの二値である。だから価格は連続的でなく階段状に動く。

第三に、建築可能性が価格になる経路は四つある。買主の利用可能性、担保評価と住宅ローン審査という金融、再売却の見込み、そして保有費用と課税である。このうち最も強く働くのは金融の経路であり、同時に売主が最も動かせるのもここである。第四に、不確実な状態は最悪値で評価されたうえ調査費用と白紙解除のリスクが上乗せされるため、確定した不許可より高くつくことがある。

分からない
確定させる
届ける相手
調整区域の売却でまず取り組むべきは価格の設定ではなく、建築可能性を確定させることである。確定して初めて届ける相手が決まる。

したがって売主にとっての課題は、いくらで売り出すかを考える前に、建築可能性を確定させることである。確定した情報は、たとえ不利な内容であっても、届けるべき相手を特定させてくれる。価格の設定はその後に来る。この順序を逆にすると、届かない相手に向けて価格だけを下げ続けることになる。

8.1 制度側に残された課題

本稿の観点から見て、制度に残された課題は二つある。一つは、建築可能性に関する情報が売主に届く時点が遅いことである。宅地建物取引業法が定める重要事項の説明は契約が成立するまでの段階を規律するが、価格が実質的に決まるのはそれより前である。売り出しの前段階で可否の見込みを確認できる窓口の存在が、どれだけ周知されているかは地域によって差がある。

もう一つは、廃止された制度の名称が地域に残り続ける問題である。既存宅地という語は、2000年の都市計画法改正で制度としては姿を消したにもかかわらず、いまも建築可能性を保証する言葉として流通している。制度改正の情報が、当事者である土地所有者に届く経路は細い。相続の局面で初めて誤解が露見するという事態は、いまも各地で起きているとみられる。

8.2 別稿に委ねる論点

本稿では扱いきれなかった論点を挙げておく。第一に、立地適正化計画をはじめとする集約型都市構造への政策転換が、調整区域の土地の長期的な価値に何をもたらすかである。人口減少局面では、市街化区域の内部でも需要の濃淡が生じる。線引きという二分法が、今後どこまで価格の説明力を保つかは検討に値する。

第二に、空家等対策の推進に関する特別措置法に基づく枠組みが、調整区域の空き家にどう作用するかである。保有費用の軽さが判断の先送りを生むという第4節の指摘は、この制度によってどの程度是正されるのか。実証的な検討が必要である。

最後に、本稿の限界を記しておく。ここで行ったのは制度と実務の論理的な突き合わせであり、統計的な検証ではない。四つの経路のうちどれがどれだけの重みを持つかは、地域と時期によって変わる。理論が示せるのは、どこを見ればよいかという地図までである。実際にその土地を測るのは、現地に立った当事者の仕事になる。

参考文献

  1. 都市計画法(昭和43年法律第100号)第7条・第29条・第33条・第34条・第43条
  2. 建築基準法(昭和25年法律第201号)第43条(接道義務)
  3. 農地法(昭和27年法律第229号)第3条・第4条・第5条
  4. 宅地建物取引業法(昭和27年法律第176号)第35条(重要事項の説明)
  5. 地方税法(昭和25年法律第226号)第702条(都市計画税)
  6. 国土交通省「都市計画運用指針」
  7. 国土交通省「不動産鑑定評価基準」
  8. 国土交通省「不動産情報ライブラリ」(不動産取引価格情報等)
  9. 住宅金融支援機構「フラット35」(融資対象住宅の技術基準等)
  10. 磐田市「磐田市の人口 令和8年度」(2026年7月末現在)
  11. 空家等対策の推進に関する特別措置法(平成26年法律第127号)
富士ヶ丘サービス株式会社 代表取締役 大石 浩之

大石 浩之

富士ヶ丘サービス株式会社 代表取締役
宅地建物取引士(静岡県知事 第027186号)

富士ヶ丘サービス株式会社 代表取締役。宅地建物取引士(静岡県知事 第027186号)。静岡県磐田市見付5789番地1で不動産業を営む。

自社で買い取る事業を持たず、仲介一本で売主の側に立つことを事業の前提に置いている。買主になれば「安く買いたい人」になり、同じ口で価格の妥当性を説明できなくなる、という理由による。買取・買取保証という売り方そのものは否定せず、売主が選んだ場合は買主にならずに複数社の見積もりを比較する立場に回る。

同社は不動産業のほか、磐田市内で介護事業を営む。高齢期の住み替え、施設入居、実家の処分という一連の局面に事業として接してきたことが、本シリーズの問題意識の背景にある。

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