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不動産法

媒介契約の三類型を比較する

専属専任・専任・一般はそれぞれ何を交換しているか

富士ヶ丘サービス株式会社代表取締役 大石 浩之初出 2026.08.23

要旨

媒介契約書に並ぶ三つの類型は、しばしば拘束の強さの順に説明される。専属専任がもっとも厳しく、専任がその次、一般がもっとも緩い、と。本稿はこの説明が片側しか見ていないと考える。契約は一方的な拘束ではなく交換であり、売主が差し出すもの(依頼先の独占)と受け取るもの(報告義務・登録義務・活動の集中)は、宅地建物取引業法34条の2において段階的に対応しているからである。

本稿はまず同条の骨格を整理し、三類型が売主に求める独占の度合いと、業者に課す義務の量が対応していることを示す。有効期間3か月、報告頻度、指定流通機構への登録期限という三つの数値の違いは、この対応関係の表現にほかならない。差し出すものが増えるほど、受け取るものも増える。したがって縛られない一般媒介がもっとも売主に有利であるという理解は成り立たない。

そのうえで、なぜ法がこの交換を設計したのかを、努力が観察できない状況における投資の回収可能性という問題として読む。独占は業者の過少投資を防ぐ装置であり、報告と登録の義務は、独占が生む私的情報の偏りを埋め戻す装置である。最後に、独占だけが渡って義務が形骸化する場合を検討し、売主が媒介契約を結ぶ前に決めておくべき事項を順序立てて示す。

媒介契約専属専任媒介専任媒介一般媒介宅地建物取引業法34条の2指定流通機構不完備契約

1. はじめに——問題の所在

不動産の売却を仲介に依頼するとき、売主が最初に署名するのは媒介契約書である。この書面には三つの類型が並び、どれかを選ぶ欄がある。専属専任媒介契約、専任媒介契約、一般媒介契約。所要時間にすれば数十秒の選択であり、実際に多くの現場でそのように扱われている。しかしこの選択は、その後の数か月にわたって、どの情報が売主に届き、業者がどこまで費用と時間を投じ、売主自身がどこまで動けるかを規定する。売却の結果を左右する条件のうち、売り出し価格と並んで早い段階で確定するのが、この一行である。

三類型は、通例「拘束の強さ」の順に説明される。専属専任がもっとも厳しく、専任がその次、一般がもっとも緩い、と。この説明そのものは誤りではない。だが片側しか見ていない。契約は一方的な拘束ではなく交換である。売主が何かを差し出しているなら、その対価として何かを受け取っているはずであり、宅地建物取引業法34条の2は、まさにその対価を法定している。拘束の強さだけを並べた説明は、対価の側を見えなくする。

本稿の問いは次のものである。三類型は、それぞれ何と何を交換しているのか。差し出されるものは依頼先の独占であり、受け取られるものは報告義務・登録義務・そして活動の集中である。この交換の条件が、有効期間・報告頻度・登録期限という三つの数値に現れる。数値の背後にある設計思想を読めば、どの類型を選ぶかは好みや慣習の問題ではなくなる。

売主
媒介契約
仲介業者
媒介契約は一方的な拘束ではなく交換である。売主が差し出すのは依頼先の独占、受け取るのは報告と登録と活動の集中である。

方法は二段構えである。前半では宅地建物取引業法34条の2の条文構造から出発し、三類型に法が何を課しているかを整理する。後半では、その設計がなぜ採られたのかを、契約理論の道具——努力が観察できない状況、契約に書ききれない事項、投じた費用が回収できない懸念——を用いて読む。法解釈そのものを争うのが目的ではない。条文を、売主が判断に使える形へ翻訳することが目的である。

先に結論を述べておく。独占の度合いと、法が業者に課す義務の量は、三類型のあいだで段階的に対応している。売主が差し出す独占が強いほど、受け取る義務も重い。したがって「縛られない一般媒介がもっとも売主に有利」という理解は成り立たない。ただし対応は完全ではない。独占がもっとも強い専属専任媒介であっても、業者がどれだけの努力をどの方向に投じるかという水準そのものは、契約に書き込めないままである。実務で起きる不満の多くは、この書き込めない領域に集まっている。

以下、第2節で34条の2の骨格を確認する。第3節で売主が差し出す独占を三段階に分解し、第4節で受け取るものを比較表として整理する。第5節で、この交換がなぜ設計されたのかを契約理論から説明し、第6節で交換が壊れる場合を検討する。第7節で売主の実務に落とし、第8節で残された課題を述べる。

なお筆者は静岡県磐田市で不動産の媒介を業とする者である。自社で買い取る事業を持たず、買取・買取保証を率先して行わない立場から書いている。この立場が三類型の評価にどう影響しうるかは、第6節で明示的に扱う。立場を隠して中立を装うことはしない。

2. 宅地建物取引業法34条の2の骨格

議論の前に、媒介契約という契約そのものの性質を押さえておく。媒介契約は、民法が定める典型契約のどれにもぴたりとは当てはまらない。売主が業者に「買主を探し、契約成立に向けて働くこと」を委ねる点では委任・準委任に近い。しかし報酬の払われ方が異なる。委任では事務の処理そのものに報酬が結びつくのに対し、媒介では売買契約が成立してはじめて報酬請求権が生じるのが原則である。成約しなければ、広告費も現地調査の手間も業者の持ち出しになる。

この成功報酬という構造が、媒介契約をめぐる問題のほとんどの出発点になる。業者は成約という一点に報酬を賭けており、売主は成約までの過程を直接見ることができない。売主が見ているのは結果であって過程ではない。34条の2は、この見えなさに対して法が置いた最低限の手当てである。

2.1 書面が義務づけられている理由

宅地建物取引業法は1952年の制定だが、媒介契約に関するこの規定は後の改正で加えられたものである。それ以前は、依頼の範囲も期間も報酬も口頭で済まされることが多く、成約後に報酬をめぐる争いが起きやすかった。誰にどこまで頼んだのかを後から証明できないからである。そこで法は、媒介契約を締結したときは遅滞なく書面を作成し、依頼者に交付することを業者に義務づけた。この書面は業者側の義務であって、売主が求めなければ出てこない類いのものではない。

書面に載せるべき事項も条文が列挙している。物件の表示、売買すべき価額または評価額、媒介契約の類型、有効期間と解除に関する事項、指定流通機構への登録に関する事項、報酬に関する事項、そして国土交通大臣が定める標準媒介契約約款に基づくものであるか否かの別である。既存の建物であれば、建物状況調査を実施する者のあっせんに関する事項も加わる。これは2018年に施行された改正で追加されたもので、中古住宅の状態を第三者が確認する仕組みを取引の流れに組み込む狙いをもつ。

最後の「標準媒介契約約款に基づくものか否かの別」は、地味だが実務上は重い。標準約款は国土交通大臣が定める雛形であり、これに基づく契約であれば、権利義務のおおよそが公表された文言どおりに決まる。基づかない契約であれば、その旨を書面に明示しなければならない。売主は、自分が結ぼうとしている契約が標準的な条件から外れているかどうかを、この一項目で確認できる。

34条の2
書面の交付
記載事項
媒介契約書は業者側の義務である。物件・価額・類型・期間・登録・報酬、そして標準約款に基づくか否かの別が記載事項として並ぶ。

2.2 価額に意見を述べるときの根拠明示

34条の2はもう一つ、売主にとって使い道の大きい義務を課している。売買すべき価額について意見を述べるときは、その根拠を明らかにしなければならない、というものである。査定書という書面が実務に定着しているのは、この義務の産物と見てよい。

重要なのは、義務の対象が金額ではなく根拠だという点である。法は業者に「正しい金額を出せ」とは求めていない。求めているのは、その金額に至った道筋を示すことである。したがって売主が査定書を受け取ったとき、確認すべきは金額の高低ではなく、比較に使った事例がどこの何であり、どのような補正を加えたのかという部分になる。根拠が示されない高い数字は、この条文の観点からは意見として不完全である。

2.3 条文が定める六つの規律

同条が置く規律を、対象ごとに整理すると次のようになる。三類型で扱いが分かれるのは、後半の三つである。

規律の対象法が定める内容三類型での適用
書面の作成・交付媒介契約を結んだら遅滞なく書面を作成し、依頼者に交付する三類型に共通
価額の根拠売買すべき価額について意見を述べるときは根拠を明らかにする三類型に共通
有効期間3か月を超えることができない。超える定めを置いても3か月に短縮される専属専任・専任
指定流通機構への登録国土交通省令で定める期間内に登録し、登録を証する書面を依頼者に引き渡す専属専任・専任
業務処理状況の報告依頼者に対し、類型ごとに定められた頻度以上で報告する専属専任・専任
成約の通知登録した物件の売買契約が成立したら、遅滞なく指定流通機構に通知する登録した場合

そして条文の末尾に、この構造全体を支える規定が置かれている。これらに反する特約で依頼者に不利なものは無効とする、という定めである。法律の用語では片面的強行規定と呼ばれる。意味は単純で、法定の水準は下限であるということだ。報告を週1回より頻繁にする、登録を期限より早く行う、といった上乗せは有効である。逆に、報告を月1回に減らす、有効期間を6か月にする、といった切り下げは効力をもたない。売主が受け取るものについて、法は床を敷いている。

註:本稿は条文の骨格を売主の判断に必要な範囲で整理したものであり、逐条の解釈を尽くすものではない。個別の事案における適用については、国土交通省の解釈・運用の考え方および実際の契約書面の文言に当たられたい。

3. 売主が差し出すもの——独占の三段階

交換の一方の側から見る。売主が媒介契約で差し出しているものは何か。一言でいえば依頼先の独占である。ただし独占には段階があり、その段階が三類型を分けている。ここを「縛りの強さ」という感覚語で済ませずに、何を手放しているのかを具体的に分解しておきたい。

3.1 一般媒介——何も手放さない代わりに

一般媒介契約では、売主は複数の業者に同時に依頼できる。自分で買主を見つけて直接契約することもできる。形式的には、売主は何も手放していない。ただし標準約款には二つの型が用意されている。他に依頼した業者を相手方に明示する明示型と、明示しない非明示型である。明示型を選べば、売主は「どこに頼んでいるか」という情報を各業者に開示する義務を負う。これは独占ではないが、情報の面での小さな差し出しではある。

明示型が置かれている理由は、後の節で扱う投資インセンティブの問題と関係する。競合の顔ぶれが見えれば、業者はどこまで費用をかけるかを判断できる。見えなければ判断できず、判断できなければ様子見が合理的な選択になる。明示の義務は、売主が独占を渡さないまま業者の不確実性を下げるための、限定的な手段だといえる。

3.2 専任媒介——他社に頼む権利を手放す

専任媒介契約では、売主は他の業者に重ねて依頼することができなくなる。手放しているのは、売却の途中で別の経路を試す権利である。経済学の言い方を借りれば、これはオプションの放棄にあたる。売り出してから状況が悪ければ他社に切り替える、という選択肢を、契約期間のあいだ行使できなくする。

ただし専任媒介では、売主が自ら見つけた相手方と直接売買契約を結ぶことは妨げられない。近隣の所有者、親族、以前から関心を示していた知人。こうした相手との取引の道は残る。つまり専任媒介で手放されるのは「他の業者を使う権利」であって「自分で売る権利」ではない。この区別は、後で述べる専属専任との差そのものである。

一般
専任
専属専任
独占には段階がある。一般では何も手放さず、専任では他社に頼む権利を、専属専任ではさらに自ら売る権利を手放す。

3.3 専属専任媒介——自ら売る権利まで手放す

専属専任媒介契約では、他社への依頼が禁じられることに加えて、売主が自ら発見した相手方と直接契約することもできなくなる。売主が自分で買い手を見つけた場合でも、その業者を通して契約する。手放しているのは、その物件に関する売却経路のすべてである。契約期間中、その不動産が市場に出ていく窓口は一つになる。

この類型が実際に選ばれる場面は限られる。相続で遠方に住む所有者が、地元での交渉を含めてすべてを任せたい場合。近隣に知られずに進めたいため、窓口を一つに絞りたい場合。あるいは高齢の所有者が、複数の業者とのやりとりそのものを負担に感じる場合。いずれも、売主が手放しているのは権利であると同時に、判断と連絡の手間でもある。

3.4 差し出しに違反したときの扱い

独占は約束にすぎないから、破ることは物理的には可能である。標準約款は、これに備えて違反時の扱いを定めている。専任媒介を結びながら他の業者の媒介で売買契約を成立させた場合、専属専任媒介を結びながら自ら発見した相手方と直接契約した場合。こうした場合に、業者が約定報酬に相当する額の支払いや、媒介の履行のために要した費用の償還を請求できる旨の定めが置かれている。金額の水準は約款の版と類型によって異なるため、契約書の該当条項を確かめておく必要がある。

この定めがあること自体は、売主にとって不利益とは限らない。違反に何の効果もなければ、独占は約束として成立せず、業者は独占を前提とした投資をしない。違反に対価が結びついているからこそ、独占は交換の材料になる。売主が確認すべきは、定めの有無ではなく、その水準が自分の想定する事情——たとえば近隣の方から直接話が来る可能性——に照らして受け入れられるかどうかである。

4. 売主が受け取るもの——報告・登録・活動の集中

交換のもう一方の側を見る。独占を差し出した売主は、代わりに何を受け取るのか。法が定めているのは三つである。業務処理状況の報告、指定流通機構への登録、そして有効期間による区切りである。加えて、法定ではないが実質的な対価として、業者の活動が一物件に集中するという効果がある。順に見る。

4.1 報告——過程を見えるようにする装置

専任媒介では2週間に1回以上、専属専任媒介では1週間に1回以上、業者は依頼者に業務の処理状況を報告しなければならない。一般媒介には、この義務が法律上は課されていない。頻度の差は独占の度合いの差に対応している。売主が自ら動く余地を残している類型ほど、業者からの報告に頼る必要が小さいからである。逆にいえば、すべての経路を一つの業者に預ける専属専任では、その業者からの報告が売主にとって市場を見る唯一の窓になる。だから頻度が上がる。

この報告義務は、第2節で述べた成功報酬構造の帰結でもある。売主は結果しか見えない。報告は、見えない過程を部分的に可視化する制度的な措置である。ただし法が定めているのは頻度であって、内容の粒度ではない。ここに後の第6節で扱う問題が生じる。

4.2 登録——物件を市場に置く義務

専任媒介では契約締結の日から7日以内、専属専任媒介では5日以内に、業者は指定流通機構——実務でレインズと呼ばれる、国土交通大臣が指定した不動産流通機構——にその物件を登録しなければならない。この日数には業者の休業日を算入しない。一般媒介には、法律上の登録義務はない。標準約款では、登録するかどうかを契約時に選ぶ扱いとされている。

登録義務の意味は、囲い込みの禁止という消極的な側面だけではない。より積極的には、預かった物件を業者間の共通の市場に置く義務である。登録されれば、その情報は他の業者が閲覧でき、他社の顧客も買主候補になる。独占を渡した売主にとって、これは決定的に重要な対価である。窓口が一つになっても、買主候補の母集団は一社の顧客名簿に縮まらない。この一点があるからこそ、独占の付与が売主にとって不合理な選択にならずに済んでいる。

さらに法は、登録した業者に対し、登録を証する書面を遅滞なく依頼者に引き渡すことを義務づけている。売主は、自分の物件がいつ市場に置かれたかを書面で確認できる。そして登録に係る売買契約が成立したときは、遅滞なくその旨を指定流通機構に通知しなければならない。成約した物件が登録に残り続ければ市場の情報が濁るため、出口の側にも義務が置かれている。

登録
業者間で共有
買主候補
登録義務の本質は囲い込みの禁止だけではない。窓口を一つに絞っても買主候補の母集団は縮まらない、という保証である。

4.3 有効期間——独占に期限を打つ

専任媒介・専属専任媒介の有効期間は3か月を超えることができない。これより長い期間を定めても、その部分は効力をもたず3か月に短縮される。更新は可能だが、依頼者からの申出によることが要件であり、業者側の都合で自動的に延長する定めは認められない。一般媒介については、法は有効期間の上限を定めていない。ただし標準約款では一般媒介についても3か月以内とする扱いが示されており、実務ではこれに倣うことが多い。

3か月という区切りは、単なる期限ではない。独占が無期限であれば、業者は成果が出なくても依頼を失わない。期限があれば、期限の到来ごとに売主は継続するかどうかを判断でき、業者はその判断を意識して働く。有効期間の上限は、独占を与えたあとも売主の側に評価の機会を残すための装置である。更新に依頼者の申出を求めるのは、この評価の機会が黙って流れてしまわないようにするためだと読める。

4.4 三類型の比較

以上を一覧にすると、差し出すものと受け取るものが段階的に対応していることが見て取れる。

項目専属専任媒介専任媒介一般媒介
他の業者への重ねての依頼できないできないできる
自ら見つけた相手との直接契約できない(業者を通す)できるできる
有効期間の法定上限3か月3か月法律上の定めなし
指定流通機構への登録契約日から5日以内(休業日を除く)契約日から7日以内(休業日を除く)法律上の義務なし
業務処理状況の報告1週間に1回以上2週間に1回以上法律上の義務なし
登録を証する書面の引渡しありあり登録した場合
成約時の指定流通機構への通知ありあり登録した場合

表の左から右へ、売主が差し出すものは減り、同時に受け取るものも減る。中間に位置する専任媒介が実務で選ばれることが多いのは、自ら売る権利を残しながら報告と登録を受け取れるという、この配置による。ただし表は法定の水準を並べたものにすぎない。第2節で述べたとおり法定の水準は下限であるから、上乗せの余地は残されている。

5. なぜ独占と義務が対応するのか

ここまでは条文の記述である。次に、なぜこの対応関係が設計されたのかを考える。手がかりは契約理論にある。結論を先に言えば、独占は業者の過少投資を防ぐ装置であり、報告と登録の義務は、独占が生む情報の偏りを埋め戻す装置である。二つは一対で設計されている。

5.1 努力は観察できない

依頼人が代理人に仕事を任せるとき、代理人がどれだけの努力を投じたかを依頼人が直接には観察できない状況を、ホルムストローム(1979)はモラルハザードの問題として定式化した。観察できるのは結果だけであり、結果は努力だけでなく運にも左右される。したがって結果に報酬を結びつける契約は、代理人に運のリスクを負わせることになる。

媒介はこの構図にほぼそのまま当てはまる。売主が観察できるのは成約したかどうかであり、業者が何件に当たり、どの媒体にいくら投じ、どの買主にどう働きかけたかは見えない。報酬は成約に結びついている。売主にとって、業者が手を抜いているのか、市場が薄いだけなのかを区別する手立ては、そのままでは存在しない。

5.2 投資が回収できないという懸念

もう一つの問題は、投資の回収可能性である。業者が物件のために投じる費用——現地調査、写真、図面の作成、広告の出稿、問い合わせへの応答、内覧の立会い——は、成約しなければ回収されない。ここで一般媒介の場合を考える。売主が同じ物件を複数の業者に依頼していれば、ある業者が費用をかけて買主を掘り起こしても、別の業者の顧客が先に契約するかもしれない。その場合、投じた費用はすべて失われる。

この構造のもとでは、各業者にとって合理的な選択は、費用のかかる手段を避けて様子を見ることになる。問い合わせが来れば対応するが、こちらから掘り起こしにはいかない。結果として、複数社に依頼したにもかかわらず、どの社も本腰を入れないという状態が生じうる。競争が投資を増やすとは限らない。取り分が確保されない競争は、投資を減らす方向にも働く。

グロスマン=ハート(1986)以降の不完備契約の理論は、この種の問題を、事前に契約で書ききれない事項があるときに投資が過少になる問題として扱ってきた。業者が投じるべき努力の水準を、あらかじめ契約に列挙して強制することはできない。物件ごとに必要な手は違い、市場の反応によっても変わるからである。書けないならば、投資した側が果実を得られる仕組みを別に用意するほかない。専任・専属専任という独占は、まさにその仕組みである。

5.3 独占が生む新しい問題と、その埋め戻し

しかし独占を与えれば問題が解決するわけではない。独占は業者の投資意欲を高めると同時に、売主が外部の情報に触れる経路を断つ。他社に頼んでいれば得られたはずの別の見立て、別の反響、別の買主候補が、売主の手元に来なくなる。ジェンセン=メックリング(1976)の言葉を借りれば、依頼人と代理人の利害が完全には一致しない以上、監視の費用が発生する。独占はこの監視をいっそう難しくする。

ここで法が置いたのが、報告義務と登録義務である。報告義務は、売主が失った「他社から届く情報」の一部を、独占を得た業者自身に供給させる。登録義務は、売主が失った「他社の顧客に届く経路」を、業者間の共通市場によって回復させる。独占の度合いが強いほど失われるものが大きいから、報告の頻度は上がり、登録の期限は短くなる。第4節の表に現れた段階的な対応は、この埋め戻しの設計である。

つまり三類型は、独占の強さを段階的に並べたものではない。独占と埋め戻しの組み合わせを三通り用意したものである。売主が選んでいるのは拘束の強さではなく、どの組み合わせが自分の物件と事情に合うかである。

6. 交換が壊れるとき

設計としての整合性と、現実の運用は別である。この交換が壊れるのは、独占だけが渡って、埋め戻しの側が働かない場合である。壊れ方は主に二つある。登録が実質を欠く場合と、報告が形骸化する場合である。

6.1 登録が実質を欠く場合

登録義務は期限内に登録することを求めるが、登録した情報が他社にどう扱われるかまでは、条文の文言だけでは担保されない。他社から問い合わせが来ても商談中を理由に紹介を断る、といった運用がなされれば、登録は形式的に履行されつつ、共通市場に置くという実質は失われる。実務でいわゆる囲い込みと呼ばれてきた問題である。

なぜそれが起きるのかは、報酬の構造から説明できる。売主側と買主側の双方から報酬を受けられる取引と、売主側からのみ受ける取引とでは、同じ価格で成約しても業者の収入が変わる。この差が、他社の買主を遠ざける誘因を生む。誘因の構造そのものは本稿の範囲を超えるため別稿に譲るが、媒介契約の類型選択という文脈では、次の点だけ押さえておけばよい。独占を渡すという判断は、この誘因に売主が晒される度合いを高める判断でもある、ということである。

売主の側に手段がないわけではない。第4節で述べたとおり、業者には登録を証する書面を引き渡す義務がある。この書面には登録の年月日と登録番号が記載される。売主はこれを受け取ることで、少なくとも登録の事実と時点を自分の目で確認できる。書面が出てこないまま日が過ぎるようであれば、その時点で問うべきである。交換の対価を受け取っているかどうかを確かめるのは、依頼者の権利である。

独占だけが渡る
形式的な履行
売主による確認
交換が壊れるのは、独占だけが渡って埋め戻しが働かないときである。登録を証する書面と報告の中身が、売主の確認点になる。

6.2 報告が形骸化する場合

もう一つの壊れ方は報告である。法は頻度を定めたが、内容の粒度を定めていない。したがって「反響はまだありません」「引き続き広告を継続します」という一行でも、頻度を満たせば義務違反にはなりにくい。売主が受け取っているのは、形式としての報告であって、判断に使える情報ではない。

この差は決定的である。報告の目的は、売主が価格や条件を見直す判断をできるようにすることにある。判断に必要なのは、問い合わせが何件あり、そのうち内覧が何件で、内覧した買主が何を理由に見送ったか、である。件数と理由が分かれば、価格の問題なのか、写真や資料の問題なのか、物件固有の条件の問題なのかを切り分けられる。切り分けられなければ、売主に残る選択肢は値下げだけになる。

6.3 一般媒介にすれば壊れないのか

ここで当然の反論がある。独占を渡すから壊れるのであって、一般媒介で複数社に依頼すれば、業者は互いに監視し合い、囲い込みも起こりにくいのではないか、と。この反論には正しい部分がある。複数社に依頼すれば、売主のもとには複数の見立てと複数の反響が届く。一社の報告だけに依存しないという意味で、情報の面での安全装置にはなる。

しかし第5節で見た投資の問題が同時に発生する。取り分が確保されない状況では、費用のかかる手段は選ばれにくい。しかも一般媒介には法律上の登録義務も報告義務もない。売主は独占を手放さない代わりに、法が保障する対価も受け取らない。届く情報が増えるように見えて、その情報は業者が任意で提供するものにとどまる。

この効き方は市場の厚みに依存する。買主候補が多く、業者が掘り起こしをしなくても問い合わせが集まる市場であれば、一般媒介の競争は機能しやすい。逆に、買主候補が限られ、掘り起こしの手間が成否を分ける市場では、どの社も動かない状態に陥りやすい。静岡県磐田市は人口およそ16万3千人(2026年7月末現在)の市であり、周智郡森町の人口はおよそ1万5千9百人(2026年4月1日時点)である。この規模の市場で、同一物件に複数社が費用を投じて競り合う状況は、都市部ほど自然には生じない。

したがって「一般媒介か専任か」は、拘束を嫌うかどうかではなく、その物件が置かれている市場で競争が投資を生むのか、それとも様子見を生むのかという問いになる。答えは物件と地域によって変わる。一律の推奨は成り立たない。

註:筆者は自社で買い取る事業を持たず、買取・買取保証を率先して行わない立場にある。この立場は、売主に独占を求める側の立場でもある。本節の議論が独占の擁護に傾いていないかは、読者の側で割り引いて読まれるべきである。買取という売り方そのものを否定する意図はない。

7. 売主の実務への含意

以上を、売主が媒介契約を結ぶ前後に取れる手順へ落とす。順序に意味がある。後の判断に使う材料を、先の工程で作っておく必要があるためである。

7.1 類型を選ぶ前に、期限と自己発見の可能性を書き出す

三類型の選択は、物件の良し悪しからではなく、売主自身の二つの事情から決まる。第一に、いつまでに引き渡す必要があるか。住み替えや納税の期限が決まっているなら、独占を渡して活動を集中させ、3か月という区切りで評価する進め方が噛み合う。期限がないなら、経路を広く開けておく選択の余地が大きい。

第二に、自分で買主を見つける可能性がどれだけあるか。隣地の所有者が以前から関心を示している、親族が住むかもしれない、地域の知人から話が来そうだ——こうした心当たりがあるなら、自ら見つけた相手と直接契約できるかどうかが実際の分かれ目になる。専属専任媒介ではこの道が閉じる。心当たりがある場合、そのことを媒介契約の前に業者へ伝えておくほうがよい。伝えたうえで類型を決めれば、後から違約の問題として扱われずに済む。

7.2 独占を渡すなら、受け取るものを書面で具体化する

第6節で見たとおり、法が定めているのは報告の頻度であって内容ではない。ここは売主の側から上乗せできる。片面的強行規定の効果により、依頼者に不利な切り下げは無効だが、依頼者に有利な上乗せは有効だからである。媒介契約を結ぶ場で、報告に含める項目を取り決めておく。

  • 指定流通機構への登録を証する書面を、登録後に受け取る
  • 問い合わせ件数と内覧件数を、分けて報告してもらう
  • 内覧した買主から出た指摘の内容を、要約で伝えてもらう
  • 広告を出した媒体と掲載の状況を、報告に含めてもらう
  • 価格や条件を見直す判断をする日を、売り出し前に日付で決めておく

最後の項目が効く理由を述べておく。判断の日を決めていない売却では、値下げは反響が途絶えてから慌てて行われる。その順序は、買主側に売り急ぎの状態を伝えてしまう。あらかじめ日付を決めておけば、同じ値下げでも計画の一部として実行できる。決めた日に材料が揃っているかどうかが、報告の質を測る実地の試験にもなる。

7.3 3か月を評価の単位として使う

有効期間の上限が3か月であることは、制約ではなく道具として使える。更新は依頼者からの申出によるのだから、期間の満了は自動的に訪れる評価の機会である。継続するか、類型を変えるか、依頼先を変えるか。この三択を期間満了のたびに検討する。

検討の材料は、その3か月に受け取った報告そのものである。問い合わせが一定数あって内覧に至らないなら、写真・資料・価格の見え方の問題である可能性が高い。内覧はあるが申込みに至らないなら、物件固有の条件か価格水準の問題である。問い合わせ自体が乏しいなら、そもそも届いていない。どこで止まっているかによって、次の3か月で変えるべきものが違う。類型を変えるという選択が意味をもつのは、届いていないことが原因だと判断できたときに限られる。

7.4 一般媒介を選ぶ場合に決めておくこと

一般媒介を選ぶ判断は、十分にありうる。ただし法定の対価が付いてこない以上、対価に相当するものを自分で設計する必要がある。依頼するのは何社か。明示型にするか非明示型にするか。指定流通機構への登録を行う扱いにするか。報告を任意で受けられるか。売り出し価格と物件資料を各社で揃えるか。とくに最後の点は見落とされやすい。同じ物件が社ごとに違う価格・違う写真で市場に出れば、買主から見て情報の整合性が失われ、かえって警戒される。

また、複数社に依頼したことによる負担が売主自身に返ってくる点も見込んでおく。連絡の窓口が増え、内覧の日程調整が重なり、報告の粒度も社ごとに揃わない。この手間を引き受けられる状況にあるかどうかが、一般媒介が機能するかどうかの前提条件になる。

8. 結論と今後の課題

媒介契約の三類型は、それぞれ何と何を交換しているのか。本稿の答えは次のとおりである。売主が差し出すのは依頼先の独占——他の業者に頼む権利と、自ら見つけた相手と直接契約する権利——であり、受け取るのは報告義務・登録義務・そして活動が一物件に集中することによる投資である。宅地建物取引業法34条の2は、この二つを段階的に対応させている。独占が強くなるほど、報告の頻度は上がり、登録の期限は短くなる。

この対応関係には理由がある。業者の努力の水準は契約に書ききれず、投じた費用は成約しなければ回収されない。書けない努力を引き出すために独占を与え、独占が断ってしまう情報の経路を報告と登録で埋め戻す。三類型は拘束の強弱を並べたものではなく、この独占と埋め戻しの組み合わせを三通り用意したものである。だから「縛られない一般媒介が売主に有利」とも「独占を渡す専属専任が安全」とも、一般には言えない。

差し出すもの
受け取るもの
手取り
三類型の選択は拘束の強弱の選択ではない。独占と埋め戻しの組み合わせを、物件と事情に合わせて選ぶ判断である。

8.1 制度に残された課題

本稿の観点から見て、現行制度に弱い箇所が二つある。第一に、報告義務が頻度のみを定め、内容の粒度を定めていない点である。第6節で述べたとおり、頻度を満たす一行の報告は、売主の判断材料にならない。報告に含める項目を標準化すれば、売主が受け取る対価の質は底上げされる。ただし標準化は形式化を招きやすく、様式が増えるだけで中身が伴わない結果にもなりうる。設計は容易ではない。

第二に、一般媒介に登録義務が及ばない点である。制度の理屈は明快で、独占を差し出していない売主に対価を与える必要はない、というものである。しかし市場全体から見れば、登録されない物件が増えるほど、業者間の共通市場に集まる情報は薄くなる。取引価格の情報が集まらなければ、次の売主の査定に使える事例も減る。個別の交換としては整合的な設計が、市場の情報基盤という観点では別の評価を受けうる。この論点は、指定流通機構という制度そのものの設計問題として、別稿で扱う。

8.2 本稿の限界

本稿は条文の構造と契約理論による整理であって、実証分析ではない。類型ごとに販売期間や成約価格がどう違うかを示したものではないし、示すには成約データの蓄積が要る。理論が示せるのは、どの変数を見るべきかという方向だけである。

また本稿は、独占と埋め戻しの対応関係を制度の設計意図として読んだが、この読み方自体が一つの解釈である。三類型の成立には、業界の実務慣行や制度改正時の事情も影響している。歴史的経緯からの検証は行っていない。

さらに、囲い込みが生じる誘因の構造については、報酬の受け方という別の論点に踏み込む必要があり、本稿では立ち入らなかった。媒介契約の類型選択とこの誘因の関係は、売主の手取りに直結する問題である。両手取引の経済分析として、稿を改めて論じる。

8.3 売主に残る一つの問い

最後に、実務の場に戻しておく。媒介契約書の類型欄に丸をつけるとき、売主が自分に問うべきことは一つである。自分はいま何を差し出し、その対価として何を受け取ることになっているか。差し出すものは条文と約款に書いてある。受け取るものも書いてある。書いていないのは、受け取ったものが実際に届いているかを、いつ、どうやって確かめるかである。その確かめ方を契約の場で決めておくことが、三類型のどれを選ぶかという判断と同じか、それ以上に結果を左右する。

参考文献

  1. 宅地建物取引業法(昭和27年法律第176号)第34条の2「媒介契約」
  2. 宅地建物取引業法施行規則(昭和32年建設省令第12号)
  3. 国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」
  4. 国土交通省「標準媒介契約約款」
  5. 民法(明治29年法律第89号)第643条以下「委任」
  6. 一般財団法人不動産適正取引推進機構「RETIO 判例検索システム」
  7. 国土交通省「不動産情報ライブラリ」(不動産取引価格情報等)
  8. ベンクト・ホルムストローム(1979)「モラルハザードと観察可能性」
  9. サンフォード・J・グロスマン/オリヴァー・D・ハート(1986)「所有権の費用と便益——垂直統合と水平統合の理論」
  10. オリヴァー・ハート(1995)『企業 契約 金融構造』(鳥居昭夫訳、慶應義塾大学出版会、2010)
  11. マイケル・C・ジェンセン/ウィリアム・H・メックリング(1976)「企業の理論——経営者行動、エージェンシー・コストおよび所有構造」
  12. ロナルド・H・コース(1937)「企業の本質」
  13. 磐田市「磐田市の人口 令和8年度」(2026年7月末現在)
富士ヶ丘サービス株式会社 代表取締役 大石 浩之

大石 浩之

富士ヶ丘サービス株式会社 代表取締役
宅地建物取引士(静岡県知事 第027186号)

富士ヶ丘サービス株式会社 代表取締役。宅地建物取引士(静岡県知事 第027186号)。静岡県磐田市見付5789番地1で不動産業を営む。

自社で買い取る事業を持たず、仲介一本で売主の側に立つことを事業の前提に置いている。買主になれば「安く買いたい人」になり、同じ口で価格の妥当性を説明できなくなる、という理由による。買取・買取保証という売り方そのものは否定せず、売主が選んだ場合は買主にならずに複数社の見積もりを比較する立場に回る。

同社は不動産業のほか、磐田市内で介護事業を営む。高齢期の住み替え、施設入居、実家の処分という一連の局面に事業として接してきたことが、本シリーズの問題意識の背景にある。

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