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組織の経済学

売主は仲介を監視できるか

監視費用・保証費用・残余損失の三分類と、報告制度の実効性

富士ヶ丘サービス株式会社代表取締役 大石 浩之初出 2026.08.23

要旨

売却を委ねた売主が最初に抱く疑問は、ちゃんとやってくれているか、である。この素朴な問いは、経済学的には厄介な構造を持つ。確かめるには費用がかかり、その費用は依頼人である売主が負担し、しかも確かめられる範囲には原理的な限界がある。本稿の問いは、売主は仲介を監視できるか、である。

分析装置はジェンセン=メックリング(1976)の三分類、すなわち監視費用・保証費用・残余損失である。三つは並列の項目ではなく互いに置き換わる関係にあり、どれか一つを減らそうとすれば他が増える。この視点から見ると、報告をこまめにもらいましょうという助言は、監視費用を増やして残余損失を減らす操作にすぎず、無条件に正しい助言ではないことが分かる。

本稿は、売主が観察できるものを外形・第三者の記録・代理人の自己申告・原理的に観察不能の四層に分け、手取りに効く情報ほど観察しにくい層に偏っていることを示す。そのうえで、観察できることと契約に書けることを区別し、宅地建物取引業法の報告義務を粒度・独立性・反証可能性の三基準で評価する。報酬関数の傾きそのものの議論は別稿に譲る。

エージェンシー・コスト監視費用保証費用残余損失媒介契約報告義務観察可能性

1. はじめに——確かめることにも費用がかかる

媒介契約を結び、物件を市場に出したあと、売主が最初に抱く疑問はきまって同じである。ちゃんとやってくれているのだろうか。この問いは素朴に見えるが、経済学的にはかなり厄介な構造を持っている。確かめるには手間と時間という費用がかかり、その費用を負担するのは依頼した売主自身である。そして、費用をいくら積んでも確かめられない領域が残る。

本稿の問いは、売主は仲介を監視できるか、である。答えを先に述べれば、部分的にはできる。ただし、できる範囲は売主が想像するよりも狭い。狭さの原因は担当者の不誠実さではなく、売主が知りたい情報がどこで生まれ、どこに記録されるかという構造にある。反響が何件あったかという情報は、業者の電話機と担当者の記憶の中で生まれる。売主の側には、その情報が生まれる場所がない。

はじめに、本稿が扱わない論点を明示しておく。売主と仲介業者の関係が依頼人と代理人の関係であること、そして報酬が売買価格に比例することによって誘因が歪むこと——報酬関数の傾きの問題——については、別稿で報酬告示の速算式に即して論じた。本稿はその結論を前提として引き受け、重ならない領域を扱う。すなわち、誘因に歪みがあるとして、その歪みを売主はどこまで観察できるのか、観察のために何を負担するのか、法が課した報告制度はその観察をどれだけ助けているのか、という三点である。

売主
確かめる
仲介業者
監視とは、代理人が依頼人の利益に沿って動いているかを確かめる作業である。作業である以上、費用がかかり、その費用は依頼人が負担する。

この問いに答えるための道具を、エージェンシー理論は用意している。ジェンセン=メックリング(1976)は、依頼人が代理人に業務を委ねるときに生じる費用を、監視費用・保証費用・残余損失の三つに分解した。この三分類が本稿の分析装置である。

三分類の要点は、三つが並列に並んだ項目ではなく、互いに置き換わる関係にあるという点にある。監視を強めれば監視費用が増えるかわりに残余損失が減る。代理人に証明を求めれば保証費用が増えるかわりに、やはり残余損失が減る。減らすべきは三つの合計であって、どれか一つではない。

この視点を持つと、実務で流通する助言の位置づけが変わる。報告をこまめにもらいましょう、という助言は、監視費用を増やして残余損失を減らす操作である。それが得かどうかは、増える額と減る額の比較で決まる。無条件に正しい助言ではない。同じことは、売主が業者を疑って自分で調べ回る行為にも当てはまる。調べる時間は売主の生活から差し引かれており、その分だけ確実に費用が発生している。

以下、第2節で三分類を再構成し、それぞれを最終的に誰が負担しているかを確認する。第3節では、売主が観察できるものを四つの層に分ける。第4節で観察できることと契約に書けることの区別を導入し、第5節で宅地建物取引業法の報告義務を三つの基準で評価する。第6節では逆に、監視を強めすぎたときに何が起きるかを検討する。第7節を売主の実務に落とし、第8節で残された課題を述べる。

なお筆者は静岡県磐田市で不動産の媒介を業とする者である。本稿は、監視される側から書かれた監視の設計論である。この立場が分析に影響していないと主張するつもりはない。読者には、本稿が提案する監視項目を、筆者自身に対して用いていただくのが最も適切な読み方だと考えている。

2. エージェンシー・コストの三分類

エージェンシー理論の出発点は、バーリ=ミーンズ(1932)が指摘した所有と支配の分離にあり、ロス(1973)がそれを一般的な契約問題として定式化した。ジェンセン=メックリング(1976)はさらに進めて、この関係に伴う費用を三つに分解した。本節ではこの三分類を、媒介という場面に即して再構成する。分類そのものは短く述べられるが、含意は見た目より深い。

2.1 三つの成分

  • 監視費用——依頼人が、代理人の行動を観察し評価するために支出するもの。売主の側でいえば、報告を読む時間、ポータルサイトを自分で検索する手間、登録内容を確認する作業、説明を求めて面談する時間がこれにあたる
  • 保証費用——代理人が、自分は依頼人の利益に沿って動いていると示すために自ら支出するもの。業者の側でいえば、販売活動報告書を作成する工数、広告の掲載証跡を揃える手間、査定の根拠を書面に落とす作業がこれにあたる
  • 残余損失——監視と保証を尽くしてもなお残る、依頼人にとっての最適な結果からの乖離。売り急がなくてよい売主が結果として早めに決めてしまった分、より高く評価する買主に情報が届かなかった分がこれにあたる

三つのうち最初の二つは実際に支払われる費用であり、領収書や工数として姿が見える。三つ目だけは姿が見えない。残余損失は、起こらなかったより良い結果との差額であるため、当事者は事後にも金額を知りえない。手取りが削られたことに気づかないまま取引が終わる、という事態は、この成分の性質から生じる。

2.2 三つは足し算であり、同時に置き換えである

三分類が有用なのは、三つのあいだに交換関係があるからである。監視を強めれば残余損失は減るが、監視費用が増える。保証を厚く求めれば残余損失は減るが、保証費用が増える。そして監視も保証も、費用対効果は逓減する。最初の一回の確認は多くを教えるが、五回目の確認が新たに教えることは少ない。

したがって最小化の対象は三つの合計であり、残余損失を単独でゼロに近づける設計は、たいていの場合において総費用を増やす。エージェンシー理論の実践的な含意は、代理人を疑えという教訓ではなく、乖離をゼロにする契約は存在しないのだから、どこで折り合いをつけるかを事前に決めよ、という設計上の指示である。

2.3 保証費用も、最終的には依頼人が負担する

見落とされやすいのが、保証費用の帰着である。報告書の作成も、広告の証跡を揃える作業も、代理人が自分の手を動かして行う。したがって一見すると業者の負担に見える。しかし競争のある市場では、代理人はその工数を織り込んだうえで報酬を提示するか、あるいは工数の増加に見合うだけの案件しか引き受けなくなる。保証費用は最終的に依頼人に転嫁されるか、断られるという形で依頼人に跳ね返る。

この帰着は、報酬の上限が法定されている媒介では、より屈折した形で現れる。報酬告示が上限を定めている以上、保証費用が増えても報酬に上乗せすることはできない。転嫁の経路が塞がれているとき、増えた工数は別のところで調整される。具体的には、報告に割く時間が増えれば買主を探す時間が減るか、報告そのものが定型文で埋められるか、あるいはその案件の優先順位が下がる。要求は無料ではない。

ここから一つの実務的な結論が出る。売主が求めるべきは、報告の量ではなく報告の設計である。同じ工数であれば、定型の長文よりも、数と内訳が分かれた短い記載のほうが情報量が多い。量を求めることは保証費用を増やすが、設計を求めることは、それ自体では工数を増やさない。

監視費用
保証費用
残余損失
三成分は並列の項目ではなく互いに置き換わる。監視を強めれば残余損失は減るが監視費用が増える。減らすべきは合計である。

2.4 監視者を監視するのは誰か

アルチアン=デムゼッツ(1972)は、複数人が協働する生産では個々の貢献を分離して測ることができないため、専任の監視者が必要になると論じた。そして、その監視者自身が手を抜かないようにするには、監視者に残りの利益を受け取る権利——残余請求権——を与えればよい、と述べた。監視の担い手を動機づけるのは、監視の成果を自分で受け取る立場である。

この議論を媒介に当てると、売主の位置がはっきりする。売主は残余請求者である。売買価格が動けば、その差はほぼそのまま自分の手取りに反映される。したがって売主には、監視をきちんと行う動機が十分にある。ところが売主には、監視を行う技術がない。反響を数える方法も、他社の担当者が何を言われたかを知る方法も持たない。動機はあるが技術がない、というのが売主の置かれた位置である。

組織であれば、この不一致は分業で埋められる。株主は監査法人を雇い、取締役会を置く。売主にはそれがない。第3節以降で扱うのは、この技術の空白を、制度と契約と自分の手でどこまで埋められるかという問題である。

成分誰が手を動かすか最終的な負担者媒介での具体例
監視費用依頼人(売主)売主報告を読む時間、掲載状況の自己確認、面談
保証費用代理人(業者)報酬または優先順位を通じて売主報告書の作成、登録証明書の交付、根拠の書面化
残余損失誰も支出しない売主(気づかないまま)早すぎる成約、届かなかった買主

3. 売主が観察できるものの四層

監視の設計を始める前に、そもそも何が見えるのかを棚卸ししなければならない。ここを曖昧にしたまま監視を強めると、見えているものばかりを何度も確認し、見えていないものは最後まで見えないという事態になる。本節では、売主が知りたい事柄を、確かめ方の性質によって四つの層に分ける。

3.1 第一層——自分の目で確かめられる外形

第一層は、売主が誰の助けも借りずに確認できる事柄である。物件がポータルサイトに掲載されているか、掲載されている写真は何枚か、間取り図や周辺環境の説明が入っているか、表示価格は打ち合わせたとおりか。現地の看板、折込みや投函のチラシも同じ層に属する。

この層の長所は、確認に費用がほとんどかからないことである。自宅の端末で物件名や所在地を検索すれば済む。短所は、情報量が乏しいことにある。掲載されているという事実は、掲載されていないという事実ほどには多くを語らない。掲載されていても写真が二枚しかない、間取り図がない、周辺の生活利便の記載がないといった差は、この層で見える数少ない実質的な情報である。

3.2 第二層——第三者が作った記録で確かめられるもの

第二層は、代理人以外の主体が作成した記録によって確かめられる事柄である。専任媒介契約または専属専任媒介契約では、業者は指定流通機構に物件を登録し、登録を証する書面を売主に交付しなければならない。この書面は業者が作った報告ではなく、機構という第三者の記録に基づく証明である。書面に記された情報を用いて、売主は自分の物件の登録内容と取引状況の区分を自ら確認できる。

同じ層には、登記事項証明書、固定資産税の課税明細、契約書や重要事項説明書といった書面も入る。いずれも作成主体が代理人ではないか、あるいは代理人が作っていても第三者の記録と突き合わせられる形をしている。監視の道具としての価値は、この独立性から来る。

第三者の記録
自己申告
見えない領域
売主が確かめられる範囲は、外形と第三者の記録までである。反響や他社対応は代理人の申告にしか存在せず、断られた紹介は記録にも残らない。

3.3 第三層——代理人の自己申告にしか存在しないもの

第三層からが本題である。問い合わせが何件あったか、そのうち何件が内覧に至ったか、内覧した買主が何を指摘したか、他社から物件確認の連絡が何件入ったか。これらは、売主が最も知りたい情報であり、価格を見直すかどうかの判断に直結する。そして、この情報は代理人の内部でしか生成されない。

第三層の情報には、原理的な弱点が二つある。第一に、代理人以外に控えが存在しない。第二に、ゼロという報告を検証する手段がない。問い合わせが三件あったという報告は、後の展開と矛盾すれば疑いを持てる。問い合わせがゼロだったという報告は、それが事実であっても、事実でなくても、外形にはまったく同じ痕跡しか残さない。存在しないことの証明は、この層では成立しない。

3.4 第四層——原理的に観察できないもの

第四層は、記録という形をそもそも取らない事柄である。担当者がその週にこの物件へどれだけの時間を割いたか。ある買主候補に声をかけようとして、やめたかどうか。売主に伝えられなかった代替案があったかどうか。これらは代理人自身にすら明確に意識されていないことがあり、意識されていても記録には残らない。

第四層を監視で埋めることはできない。ここに対処があるとすれば、監視ではなく、誘因の設計と関係の設計である。相手が努力する動機を持つ状況を作るか、事後に関係を切り替えられる出口を用意するかのいずれかになる。三か月という媒介契約の期間制限が意味を持つのは、この層に対してである。

内容の例確かめ方監視費用手取りへの影響
第一層 外形掲載の有無、写真の枚数、表示価格自分で検索するごく小さい小さい
第二層 第三者の記録指定流通機構の登録内容と取引状況、登記交付された書面で照合する小さい中くらい
第三層 自己申告問い合わせ件数、内覧件数、買主の指摘報告を受け取るほかない中くらい大きい
第四層 観察不能割かれた時間、断られた紹介、示されなかった選択肢確かめる方法がない無限大大きい

この表が示す構造は明快である。手取りに効く情報ほど、確かめにくい層に偏っている。監視の設計とは、第一層と第二層を確実に押さえたうえで、第三層をどれだけ扱いやすい形にするかという作業になる。第三層を第二層に近づける工夫が、実務でできることの中心である。

4. 観察できることと、契約に書けることは違う

前節では、何が見えるかを整理した。本節では、見えたものを約束に変えられるかという別の問題を扱う。この二つは日常の感覚では区別されにくいが、契約理論では厳密に分けられている。分けておかないと、書いても意味のない条項を並べて安心する結果になる。

4.1 観察可能性と検証可能性

契約理論では、当事者が知りうることを観察可能、第三者が事後に確かめて裁定できることを検証可能と呼んで区別する。グロスマン=ハート(1986)およびハート=ムーア(1990)が展開した不完備契約の議論は、この区別を出発点に置いている。両当事者が知っていても、裁判所や第三者がそれを確かめられなければ、その事柄を条件とする約束は強制できない。強制できない以上、契約に書いても実効性を持たない。

この区別が媒介にもたらす帰結は、はっきりしている。熱心に売る、最善を尽くす、といった約束は、当事者のあいだでは意味を持つが、事後に第三者が判定できない。標準媒介契約約款に置かれた善良な管理者の注意という一般条項も、規範としては正当だが、個別の販売判断が注意義務に反していたかどうかを外から立証することは容易でない。約束の言葉として弱いのではなく、判定の技術がないのである。

4.2 書ける約束と、書けない約束

では何が書けるか。基準は単純で、外形が残るかどうかである。指定流通機構への登録を証する書面を交付すること、掲載する媒体の名称と掲載開始日を報告に記載すること、問い合わせ件数と内覧件数を分けて記載すること、価格の見直しを判断する日を特定の日付で定めること。これらはいずれも、履行されたかどうかを紙の上で確かめられる。

逆に、他社からの物件確認に適切に対応すること、という約束は、書くことはできても検証が難しい。対応が適切であったかどうかを判定するには、断られた側の記録が要る。断られた側の記録は売主の手元に来ない。ここでも第3節の第四層の壁が現れる。書けるかどうかと、確かめられるかどうかは別であり、実効性を決めるのは後者である。

4.3 証跡が残る約束だけが監視の道具になる

以上から、実効性のある約束の条件を三つに絞れる。第一に、履行の跡が書面または記録として残ること。第二に、その記録を作る主体が代理人以外であるか、少なくとも代理人以外の記録と突き合わせられること。第三に、日付が特定できること。日付が入っていない証跡は、事後の照合に耐えない。

この三条件を満たす約束は、実は多くない。しかし少ないからこそ、そこに監視の資源を集中させる価値がある。第一層と第二層で押さえられる事柄を漏れなく押さえることは、第三層について何度も説明を求めるよりも、費用対効果がはるかに高い。

註:本稿は契約条項の効力について法的な判断を示すものではない。ここで論じているのは、条項が争いになったときの立証の難易であり、条項そのものの有効性ではない。個別の契約の解釈は、専門家の判断に委ねられる。

書ける約束
第三者が確かめる
日付が残る
約束が監視の道具になるのは、履行の跡が残り、代理人以外の記録と突き合わせられ、日付が特定できる場合に限られる。

5. 報告制度は監視の道具か、保証の道具か

宅地建物取引業法は、専任媒介契約について二週間に一回以上、専属専任媒介契約について一週間に一回以上、業務の処理状況を売主に報告することを業者に義務づけている。この制度は、売主が代理人の行動を知りえないという問題への対処として設計されている。本節では、この報告義務が監視としてどれだけ働いているかを評価する。

5.1 報告の道具は、監視される側が作っている

まず構造を確認する。報告書を作るのは業者である。何を書き、何を書かないかを決めるのも業者である。売主が受け取るのは、監視の対象である当人が編集した情報である。ここには循環がある。監視の道具を被監視者が作っているのだから、報告義務が減らしているのは、厳密にいえば売主の監視費用ではない。

第2節の三分類に照らせば、報告義務は保証費用を制度によって強制する仕組みだと読むほうが正確である。本来であれば、誠実な代理人が自発的に負担して自分の質を示すはずの支出を、法が全員に義務づけている。制度が全員に課すことによって、それを行っているという事実自体は質を示す信号ではなくなるかわりに、市場全体の最低線が引き上げられる。

この読み替えには実務上の含意がある。保証費用は最終的に依頼人に跳ね返る。報告を厚くせよという要求は無料ではなく、報告に割かれた時間は買主を探す時間から差し引かれる。したがって売主が求めるべきは、報告の分量ではなく、単位工数あたりの情報量が多い形式である。

5.2 それでも報告義務が効く三つの経路

自己申告であるにもかかわらず、報告義務が実効性を持つ経路は三つある。第一は、記録が残ることである。書かれた内容は後の展開と突き合わせられる。売却の終盤になって、当初の報告と食い違う事実が現れれば、その食い違いは事後の交渉と関係の見直しにおいて意味を持つ。虚偽の記載は、時間が経つほど矛盾を抱えやすい。

第二は、期日が行動を生むことである。二週間ごとに何かを書かなければならないという制約は、書くべきことを作る動機を生む。前回と同じ文面を三度続けて出すことは、書く側にとっても居心地が悪い。締切が努力の配分を変えるという効果は、報告の内容が薄くても働く。

第三は、書かれなかったことが情報になることである。同じ定型文が繰り返される、件数が示されない、媒体名が書かれない。これらは第三層の事実を教えてはくれないが、その代理人がどの程度の粒度で仕事を記録しているかを教える。沈黙にも情報量がある。

頻度は法定
作るのは代理人
評価の基準
法が保障しているのは報告の頻度であって内容の粒度ではない。報告を作るのは監視される側であり、実効性は形式の設計に依存する。

5.3 実効性を測る三つの基準

報告の形式を評価する基準を、本稿では三つ立てる。粒度、独立性、反証可能性である。粒度とは、事実が数と内訳に分かれているかどうかをいう。独立性とは、代理人以外が作った情報を含むかどうかをいう。反証可能性とは、その記載が事実でなかった場合に、後から矛盾として現れる形をしているかどうかをいう。

この三基準で、実務でよく見る報告項目を採点すると、差がはっきり出る。反響がありましたという記載は、三つとも満たさない。問い合わせ三件、うち内覧一件という記載は、粒度を満たし、後の内覧予定と突き合わせられるため反証可能性も部分的に満たす。掲載媒体の名称と掲載開始日は、売主自身が同じ画面を見て確かめられるため、独立性を満たす。

報告の記載例粒度独立性反証可能性
引き続き広告を実施していますなしなしなし
反響がありましたなしなしなし
問い合わせ3件、うち内覧1件ありなし部分的にあり
掲載媒体の名称と掲載開始日ありありあり
指定流通機構の登録内容と取引状況の区分ありありあり
内覧後に買主側から出た指摘の要約ありなし部分的にあり

表から読めるのは、独立性を満たす項目が二つしかないという事実である。そしてその二つは、いずれも売主が自分でも確かめられる第一層・第二層の事柄である。報告制度は、第三層を第二層に変換する装置ではない。第三層を紙の上に固定し、後から矛盾を検出できる状態にする装置である。この差は小さく見えて、期待の置き方を大きく変える。

6. 監視を強めすぎると何が起きるか

ここまでの議論は、監視の不足を問題にしてきた。本節では逆側を検討する。監視は多いほどよいのか。第2節で述べたとおり、最小化の対象は三成分の合計である。監視費用が増えるだけで残余損失が減らない領域に入れば、監視は損になる。その領域は、実務上そう遠くない場所にある。

6.1 監視費用の実体は、売主の時間である

売主が支払う監視費用は、金銭よりも時間の形をとる。報告を読む時間、電話をかける時間、他社の意見を聞きに行く時間。しかも売主の多くは、生涯に一度か二度しか不動産を売らない。判断の材料を読み解くための知識を、その都度ゼロから積み上げなければならない。監視の限界費用は、経験者よりも初回の売主のほうが高い。

この非対称は、監視の設計にそのまま影響する。売主が使える監視の総量には上限がある。上限がある資源をどこに投じるかという配分問題である以上、確かめやすく情報量の多い第一層と第二層を先に押さえ、第三層には形式の指定という一度きりの投資で対処するのが合理的になる。毎週の電話は、資源の配分としては効率が悪い。

6.2 測る指標が、努力を引き寄せる

第二の問題は、監視の対象そのものが行動を変えてしまうことである。ホルムストローム=ミルグロム(1991)は、複数の仕事を担う代理人について、測りやすい仕事に報酬を強く連動させると測りにくい仕事への努力が減ることを示した。報酬ではなく監視についても、同じ構造が働きうる。

具体例で考える。内覧件数を毎回報告させ、その数字で評価する姿勢を売主が示したとする。代理人にとって合理的な反応は、内覧件数を増やすことである。ところが内覧件数は、条件の合わない見学者を招くことでも増やせる。売主にとっては、休日の予定を空け、家を片づけ、期待して待つ回数が増える。数字は改善し、成約は近づかない。指標が目標として掲げられると、指標としての性質が失われるという議論は、経営管理の領域で繰り返し述べられてきた。

この問題への対処は、指標を一つに絞らないことである。問い合わせと内覧を分け、内覧後の指摘の内容を併せて記載してもらえば、件数だけを増やす操作は内容の側で矛盾を生む。複数の指標が互いに突き合わせられる形になっていることが、単一の指標を厳しく追及することよりも効く。

測る指標
寄る努力
適正な水準
監視の対象は行動を引き寄せる。件数だけを追及すれば件数を作る努力が生まれる。指標を複数置き、互いに突き合わせられる形にする。

6.3 監視は関係の質を変える

第三の問題は、監視が信頼を締め出しうるという点である。外から与えられる統制が、自発的な動機を弱めることがあるという議論は、心理学と経済学の境界領域で研究群が積み重ねられてきた。不動産の媒介は、担当者の裁量に依存する部分が大きい仕事である。買主候補に一言添えるかどうか、値引き交渉の場でどこまで踏みとどまるか。こうした裁量は、報告書に現れない場所で発揮される。

ただし、この論点は監視をためらう理由にはならない。実務上効くのは監視の強度よりも監視の予測可能性である。あらかじめ項目と時期を決めておき、決めたとおりに確認することは、摩擦をほとんど生まない。関係の質を変えるのは、不定期に、事前の合意なく、疑いを含んだ形で行われる確認のほうである。同じ内容の確認でも、事前に決めてあるかどうかで意味が変わる。

6.4 適正な監視は、最大の監視ではない

以上の三点をまとめれば、監視には適正水準があるという結論になる。売主の時間には上限があり、指標は行動を歪め、疑いは関係を変える。他方で監視を怠れば残余損失が膨らむ。三成分の合計を小さくする点はその中間にあり、その点は物件の事情によって動く。

動かす条件は二つある。第一に、残余損失の大きさである。金額が大きい物件、判断の分岐が多い物件、期限が決まっている相続案件では、乖離が生む損失が大きいため、監視を厚くする合理性が高まる。第二に、代理人との関係の長さである。紹介や過去の取引で関係が続く見込みがあるなら、代理人の側に自ら質を示す動機が働くため、監視は薄くて済む。

7. 売主の実務への含意——監視の設計手順

以上を、売主が実際に取れる手順に落とす。順序には理由がある。監視の設計は、媒介契約を結ぶ前であればほとんど費用なしに行えるが、結んだ後では費用が跳ね上がるからである。契約前の要求は条件の提示だが、契約後の要求は相手の仕事の進め方への介入になる。同じ内容でも、伝わり方が変わる。

7.1 契約の前に、確かめ方を三行で決めておく

最初の作業は、自分がこの売却で何を確かめたいのかを言葉にすることである。すべてを確かめようとすれば第6節の問題に突き当たる。第3節の四層を思い出し、確かめられる層に的を絞る。多くの売主にとって、必要なのは次の三行に集約される。物件が市場に出ていること。どこに、いつから出ているか。反応がどれだけあったか。

この三行を、媒介契約を結ぶ面談の場で相手に伝える。書面に落とせるなら覚書でよいが、口頭で伝えて報告書の形式に反映してもらうだけでも効果はある。重要なのは、契約後に不信の表明として持ち出さず、契約前に条件の確認として提示することである。

7.2 第三者の記録を、三点だけ押さえる

第4節で述べた三条件——記録が残り、代理人以外の記録と突き合わせられ、日付が特定できる——を満たすものは多くない。実務では次の三点に絞ってよい。

  • 指定流通機構への登録を証する書面を受け取り、記載された物件の内容が打ち合わせたとおりかを確認する。専任媒介・専属専任媒介では交付が義務づけられている
  • 掲載しているポータルサイトの名称と掲載開始日を報告に書いてもらい、自分でも同じ画面を開いて、価格・写真・間取り図・説明文の内容を照合する
  • 価格を見直した場合は、改定した日付と改定後の価格を報告に残してもらう。後から経過を振り返る際の基準点になる

三点とも、確認そのものは数分で終わる。監視費用が小さく、独立性を満たすという意味で、投じる資源あたりの効果が最も大きい部分である。ここを飛ばして第三層の詮索に時間を使うのは、配分として逆になっている。

7.3 自己申告の項目は、数と内訳の形で頼む

第三層については、正確さを求めるよりも、形式を指定するほうが有効である。反響という一語ではなく、問い合わせの件数と内覧の件数を分けて記載してもらう。内覧があった場合は、買主側から出た指摘を一行でよいので添えてもらう。件数がゼロであった週は、ゼロと書いてもらう。

ゼロと書いてもらうことには意味がある。第3節で述べたとおり、ゼロを外形から検証することはできない。しかし、ゼロが続いた事実が記録に残っていれば、価格の水準か情報の届き方か、どちらかに原因があるという判断の材料になる。監視としては弱いが、意思決定の材料としては強い。

契約前に決める
第三者の記録
申告の粒度
監視の設計は契約前に行う。第三者の記録を三点押さえ、自己申告は数と内訳の形式を指定する。この順序が資源の配分として効率的である。

7.4 突き合わせは、期日を決めて一度だけ行う

第6節で述べたとおり、監視の頻度を上げることは費用を増やし、関係の質を変える。そこで、突き合わせの作業は期日を決めて一度だけ行う。売り出しから一か月ないし六週間が経った時点で、報告に書かれた掲載媒体を自分で開き、記載と実際の掲載内容が一致しているかを見る。登録を証する書面の内容も同じ日に確認する。

一致していれば、その後は報告を読むだけでよい。一致していなければ、その一点について説明を求める。説明を求める対象が具体的な相違であるとき、会話は疑いの表明ではなく事実の確認になる。監視を摩擦の少ない形にするための、これが実務的な工夫である。

7.5 三か月の節目で、監視の水準そのものを見直す

専任媒介契約と専属専任媒介契約の有効期間は三か月が上限であり、更新には売主からの申出が要る。この節目は、業者を続けるか替えるかを決める日であると同時に、監視の水準を見直す日でもある。

見直しの観点は二つある。第一に、この三か月で受け取った報告のうち、判断に実際に使ったものはどれか。使わなかった項目は、次の三か月では求めなくてよい。第二に、判断に必要だったのに手元になかった情報は何か。それが第三層の事柄なら、報告の形式を追加する。第四層の事柄なら、監視では届かない。関係を続けるかどうかという別の判断に切り替える。

監視の設計は一度きりの作業ではなく、三か月ごとに調整するものである。最初から完全な設計を用意する必要はない。三行から始めて、必要になった項目を足していけばよい。

8. 結論と今後の課題

売主は仲介を監視できるか。本稿の答えは、第一層と第二層については確実にでき、第三層については形式を整えることで部分的にでき、第四層についてはできない、というものである。そして手取りに効く情報ほど、確かめにくい層に偏っている。

この結論は悲観的に響くかもしれないが、実務的にはむしろ楽になる面がある。確かめられない領域があると分かっていれば、そこに資源を投じずに済む。監視で埋まらない部分は、監視以外の手段——期日を決めた判断、三か月ごとの点検、関係を切り替えられる出口——に委ねればよい。何が確かめられないかを知ることは、確かめられることを確実に押さえるための前提である。

三分類の観点からまとめれば、売主が動かせるのは監視費用の水準と配分だけである。保証費用は代理人が支出するが最終的には売主に跳ね返り、残余損失は姿が見えないまま手取りから差し引かれる。したがって設計の問題は、限られた監視の資源をどこに置くかという一点に収斂する。本稿の答えは、外形と第三者の記録に置け、というものであった。

三成分の合計
残る手取り
設計の余地
減らすべきは監視費用・保証費用・残余損失の合計である。売主が動かせるのは監視の水準と配分だけであり、その配分に設計の余地が残る。

8.1 制度側に残された課題

制度の面では、報告義務が頻度を定めて内容の粒度を定めていない点が、本稿の観点からは最も弱い。第5節の三基準に照らせば、問い合わせ件数と内覧件数を分けて記載する欄と、掲載媒体の名称および掲載開始日を記載する欄を標準の様式に設けるだけでも、独立性と反証可能性は目に見えて上がる。売主の監視費用は下がり、代理人の保証費用はほとんど増えない。

ただし様式の標準化には副作用がある。欄が定まれば記入は形式化しやすく、内容の薄い記載が正当化される可能性がある。第6節で述べた指標の問題は、制度の設計にも同じように現れる。標準化するのは形式であって内容ではない、という原則を保てるかどうかが、設計の分かれ目になる。

もう一つの課題は、第三者の記録を増やす方向である。指定流通機構の登録内容を売主が自ら確認できる仕組みは、第三層に属していた事柄を第二層に移した数少ない例である。同種の変換をどこまで広げられるかは、監視技術の問題であり、制度設計の問題でもある。ただし、第3節の第四層に属する事柄——断られた紹介、示されなかった選択肢——は、記録という形を取らない以上、変換の対象になりにくい。

8.2 薄い市場では、報告の解釈が難しくなる

本稿は監視の構造を一般的に論じたが、市場の厚みは報告の読み方を変える。静岡県磐田市は人口およそ16万3千人(2026年7月末現在)の市であり、周辺の町ではさらに取引が薄い。取引が薄い地域では、問い合わせが数週間ゼロであることが珍しくない。したがってゼロという報告は、代理人の努力不足の徴候としても、市場の薄さの帰結としても読める。

比較の基準がないことが、この曖昧さの原因である。同種の物件が同じ時期に複数出ていれば、反響の多寡を相対的に判断できる。取引の少ない地域では、その比較対象自体が存在しない。監視の限界は、代理人の側の性質だけでなく、市場の厚みという外部の条件によっても決まる。薄い市場での報告の解釈は、別稿で改めて論じたい。

8.3 本稿の限界と、別稿に譲る論点

本稿が用いたのは、エージェンシー理論の枠組みによる整理であり、実証分析ではない。四層の分類も、報告を評価する三基準も、筆者が分析のために立てた枠組みであって、既存の文献にそのままの形で存在するものではない。枠組みの有用性は、それを使って実務の判断が変わるかどうかで測られるべきものであり、その検証は個別の取引の中で行われるほかない。

また、本稿は監視の技術に焦点を絞ったため、いくつかの重要な論点を扱っていない。報酬関数の傾きが代理人の判断に与える影響、他社への紹介が絞られる条件、繰り返し取引と評判が誘因をどこまで補正するか。いずれも本稿の主題と隣接するが、扱う変数が異なるため、それぞれ別稿に譲る。

最後に一点を確認しておく。監視の設計は、代理人を疑うための作業ではない。第2節で述べたとおり、乖離をゼロにする契約は存在しない。存在しない以上、誠実であるかどうかにかかわらず、どこで折り合いをつけるかを事前に決めておくことが双方にとって合理的である。確かめ方が決まっている関係は、確かめ方が決まっていない関係よりも、疑いが生じにくい。監視の設計とは、疑わずに済む条件を先に作る作業にほかならない。

参考文献

  1. マイケル・C・ジェンセン/ウィリアム・H・メックリング(1976)「企業の理論——経営者行動、エージェンシー・コスト、所有構造」
  2. アーメン・A・アルチアン/ハロルド・デムゼッツ(1972)「生産・情報費用と経済組織」
  3. スティーヴン・A・ロス(1973)「エージェンシーの経済理論——依頼人の問題」
  4. アドルフ・A・バーリ/ガーディナー・C・ミーンズ(1932)『近代株式会社と私有財産』
  5. ベングト・ホルムストローム(1979)「モラル・ハザードと観察可能性」
  6. ベングト・ホルムストローム/ポール・ミルグロム(1991)「マルチタスクのプリンシパル=エージェント分析」
  7. サンフォード・J・グロスマン/オリバー・D・ハート(1986)「所有権の費用と便益——垂直統合と水平統合の理論」
  8. オリバー・D・ハート/ジョン・ムーア(1990)「所有権と企業の本質」
  9. オリヴァー・E・ウィリアムソン(1975)『市場と企業組織』(浅沼萬里・岩崎晃訳、日本評論社、1980)
  10. 宅地建物取引業法(昭和27年法律第176号)第34条の2
  11. 国土交通省「標準媒介契約約款」
  12. 国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」
  13. 磐田市「磐田市の人口 令和8年度」(2026年7月末現在)
富士ヶ丘サービス株式会社 代表取締役 大石 浩之

大石 浩之

富士ヶ丘サービス株式会社 代表取締役
宅地建物取引士(静岡県知事 第027186号)

富士ヶ丘サービス株式会社 代表取締役。宅地建物取引士(静岡県知事 第027186号)。静岡県磐田市見付5789番地1で不動産業を営む。

自社で買い取る事業を持たず、仲介一本で売主の側に立つことを事業の前提に置いている。買主になれば「安く買いたい人」になり、同じ口で価格の妥当性を説明できなくなる、という理由による。買取・買取保証という売り方そのものは否定せず、売主が選んだ場合は買主にならずに複数社の見積もりを比較する立場に回る。

同社は不動産業のほか、磐田市内で介護事業を営む。高齢期の住み替え、施設入居、実家の処分という一連の局面に事業として接してきたことが、本シリーズの問題意識の背景にある。

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